近年はドラマー池長一美とのデュオ・プロジェクトThe Third Tribeの初作『Nearly Dusk』(2019年)が話題を呼んだピアニスト小林洋子が、キャリア初のソロ・ピアノ作『BEYOND THE FOREST』を完成させた。
全9曲からなる新作は、すべて小林のオリジナルで、「月時雨の中を出発し、まだ見ぬ森の向こう側を目指す旅の物語」をアルバム・コンセプトとしている。静かに始まり、次第に強さが増して、再び静かに終わる「月時雨(石庭の雨より)」を皮切りに、ベース・ラインが楽曲の通奏低音を作る「Beyond the forest」、夜の森の中を彷徨うようなイメージのリズミカルな「Turn Circle」、メロディと曲展開がリスナーを惹きつける「A・U・N」、小林のブルース・フィーリングを反映した「Bumpy Road」等々。唯一の即興曲「improvisation : Greetings with birds」は美旋律を含む、流れのいい演奏が印象的だ。
月の出ている秋から冬にかけて起こる、一時的に降ったり止んだりする雨を指す「月時雨」という言葉が示すように、聴けば情景が浮かび上がる音楽を収めた作品である。
【Special interview for PJ】 ――初のソロ・ピアノ作。今年制作しようと思った理由は?
小林:2012年末にジストニアと診断された後、徐々に音楽をやめなければならないという、選択の余地はない状態に追い込まれましたが、事は好転し2018年夏にライヴ復帰することができました。良い音楽活動が出来、一つ一つのLIVEは私にとって宝物であり、充実した音楽活動を行うことが出来ています。
それと同時に音楽からは遠く離れて毎日を送っていた頃の思いは、未だに消えることはなく、消えるどころか、逆に色濃くなっていくような感じもありました。音楽で表現したいと、気づくと自然にソロでの作品を残したいという気持ちが強くなっていったように思います。今年に入ってすぐに、来年では遅い、やるなら今だと決めました。
――ソロ・ピアノの活動歴は?
小林:ソロ・ピアノの活動歴はありません。ヴォーカリストとのDUOライヴで、ステージ一曲目にピアノソロ、しか経験はないです。ただ、オリジナル曲でLIVEシーンで演奏し始めた頃から、しわっしわのおばあちゃんになった時、ソロ・ピアノでスタンダード曲のアルバムを残したいという思いはありました。
――相模湖Luxman Hallの出演・録音歴と今回の使用理由について。
小林:Luxman Hall の出演歴はありません。ただ、前述の音楽と離れていた時期(もちろん生まれて初めてのことですが、悲痛にも長年の相棒の大きなピアノも手放さざるを得ず)、どうしてもピアノが弾きたい思いにかられ、Luxman Hall のpianoを3回、弾きに行きました。その時、私はそのピアノにとても救われたのです。「私って、こうやってピアノを弾いていたよなぁ」と。自分がどこの誰だか、少し思い知らされたような感じでした。
とても好きな、相性の良い楽器でもありました。
その頃はまだ復帰できるなどとは思ってもいない時期でしたので、心の奥の方に、私を救ってくれたこの場所でいつかレコーディングしたいという思いがあったように思います。
(実際に、復帰後、池長一美氏とのDUO・UNITでレコーディングを決めた際、池長さんにこのホールを見てもらうため、実は訪れているのです。結果、バスドラの響きの問題で、下北沢のハーフムーンホールになったのですが)
――収録曲は④「improvisation : Greetings with birds」を除いて、ソロ・ライヴのレパートリーでした?書下ろし曲もありますか?
小林:今回収録された曲のうち、4曲はこのレコーディングを決めてから出来た曲です。
よって、レコーディングの日に初めて弾きました。後の4曲は古い曲で、何度もコンボで演奏していますが、ソロで弾いたのはもちろんこの日が初めてです。一枚通してのストーリーをもとに選曲しました。
――アルバム・コンセプトは「月時雨の中を出発し、まだ見ぬ森の向こう側を目指す旅の物語」。このアイデアはいつから?
小林:はっきりとしたアルバムのイメージが出来上がったのは、今年一月です。自然に一枚を通しての物語が出来ていき、それによって新曲4曲は出来ました。なのでレコーディング前から、impro以外,曲順も自然と決まり、レコーディング当日は、この曲順通りに演奏しました。
私自身が、遠い森の向こう側の景色はまだ見えていません。でも森を進んでいくうちに、光は見えてきました。これからの人生(音楽人生)を、穏やかに強く真っすぐに進んでいきたいと思います。
【作品情報】
アルバム名:BEYOND THE FOREST
アーティスト名:小林洋子 Yoko Kobayashi
曲目:
月時雨(石庭の雨より) Beyond the forest Turn Circle improvisation : Greetings with birds A・U・N 水泡 Bumpy Road GENEIジェネア Out of sight all composed by Yoko Kobayashi
recorded at Luxman Hall , Sagamiko on June 4th ,2020
■(p)© Yoko Kobayashi TMCD-1021
■10月21日発売
【このアルバムについての思い】
2020年6月、小林初となるpiano solo でのレコーディングをLuxman Hallで行いました。
録音予定日が一週間早かったら、一週間遅かったら、中止になっていたかもしれない微妙な時期でした。
このホールのベーゼンドルファーmodel 275 は、自粛要請により、3か月間誰にも弾かれることのなかったピアノで、館長ですらピアノの状態は見当もつかないという状況でした。
当日調律師の友野氏に託すのみで、お陰様でこの日無事に録音を終えることができました。
ありのままの自分と対峙するというより、ピアノや空気感、どこからともなく沸き起こってくる研ぎ澄まされた感覚によって、まるで当然のことのように導かれていき、予定していたオリジナル曲8曲とimprovisation一曲をアルバムに収めることができました。
このアルバムは、月時雨の中を出発し、まだ見ぬ森の向こう側を目指す旅の物語です。
聴いていただく方々の、それぞれの人生と照らし合わせていただいたり、聴くときの心の在りようで、見えてくる景色が違っていたり、深く響くピアノの音とその録音は素晴らしく、心の眼で捉えた世界を体感できる作品ではないかと思います。
●アルバムMV:
https://www.youtube.com/watch?v=PXD3TM4BxjU
https://www.youtube.com/watch?v=VVoEkJ6eS48
【ライヴ・スケジュール】
★2020.10.03(sat.) 19:00~新子安しぇりる
小林洋子(pf) 津上研太(as)
★2020.10.08(thu.) 横濱・馬車道エアジン
open 18:30 start19:00
国際なんでも音楽祭2020 秋
CD「BEYOND THE FOREST」発売記念
小林洋子(pf) Solo
★2020.10.24(sat.) 表参道ZIMAGINE
The Third Tribe
小林洋子(pf) 池長一美(ds)
open 17:30 start 18:-00
ご予約¥2,800 当日¥3,300 +order
★2020.11.07(sat.) 本八幡cooljojo jazz + art
TEAM TUCKS
小林洋子(pf) 多田誠司(as,fl) 加藤真一(b) 角田健(ds)
open 13:00 start 13:30
¥3,000 +order
★2020.11.13(fri.) 新宿pit-inn
TEAM TUCKS
小林洋子(pf) 多田誠司(as,fl) 加藤真一(b) 角田健(ds)
open 19:00 start 19:30
¥3,000 (1 drink 付)
40名様限定予約制+2nd.set のみのLIVE配信
★2020.11.28(sat.) 成城 cafe Beulmans
The Third Tribe
小林洋子(pf) 池長一美(ds)
open 13:00 start 13.30
¥3,000 +2 drink order
★2020.12.18(fri.) 横濱・馬車道エアジン
小林DUO企画2020
小林洋子(pf) 小美濃悠太(cb)
19:00 ~
ご来場6名様限定要予約+LIVE配信
★2020.12.19(sat.) 中野Sweet Rain
The Third Tribe
小林洋子(pf) 池長一美(ds)
open 18:30 start 19:30
¥2,800 +order
【小林洋子profile】
4歳の頃よりピアノを始め、東京音楽大学ピアノ科にて、鈴木泰代氏、弘中孝氏に師事。指揮法を山本直純氏、森正氏に師事し、作曲家・三枝成彰氏のアンサンブルレッスンの専属ピアニストを務め、音楽表現の幅を広げることとなる。在学中よりJAZZ即興、作曲に興味を持つ。卒業後、ジャズピアノを辛島文雄氏に師事し、その頃より自己のTRIOを結成、オリジナル曲を中心に活動を開始する。当時、渋谷毅オーケストラ、じゃがたら、生活向上委員会大管弦楽団などで活躍中の吉田哲治氏(tp)率いるカルテット、FIVESに参加。共演ミュージシャンは、古澤良治郎、外山明、村上ポンタ秀一、吉野弘志、早川岳晴、山元恭介、向井滋春、石渡明廣etc.。その後今泉裕(ss)グループ(津村和彦gt 永田利樹cb.藤井信雄ds)にも参加。
2001年、ピアノ・トリオによるリーダーアルバム『LITTLE THINGS』[吉野弘志(b)、堀越彰(ds)]をリリース。
2005年に鈴木徹大氏(g)とのDUO:B・B・STREEPにて『LITTLE THINGS Ⅱ』を発表。
2008年より同DUO を軸としてトリオ・カルテット、クインテットでの活動も始動。
著書に「クラシック・イン・ジャズ」2巻・3巻(共著)、「コンテンポラリー・ジャズピアノ」3巻(共に中央アート出版)にも協力している。
2012年末、難病「音楽家のジストニア」と診断されるも、2018年7月ライヴ復帰を果たす。
2019年5月、CD『Neary Dusk』をリリース。レコーディング以降、The Third Tribe ピアノとドラムの希少なDUOにて、マンスリーライヴを敢行している。
2020年6月、初のpiano soloでのレコーディングを行う。
2020.10.21 CD『BEYOND THE FOREST』(piano solo) がリリースされる。
●小林洋子オフィシャルサイト:https://www.piano-yokokobayashi-jazz.com/