ニューヨークに本店を持つジャズ・クラブとして1988年、東京都港区南青山の骨董通りに開業。記念すべき初出演アーティストは歌手トニー・ベネットだった。
以来、常に海外の一流ミュージシャンがステージを飾り、瞬く間に日本を代表する名店に。
開業10周年の98年には180席の店舗から、至近の場所となる現在の280席の新店舗へと移動。ジャズ/フュージョンをメインに、R&B、ボサノヴァ、ポップスをカヴァーし、2010年代に入ると邦人アーティストの出演も増して、より幅広い音楽ファンへと門戸を拡大している。
ワンドリンクのカジュアルな利用から、本格的なフランス料理のディナーまで、食事のメニューが豊富に用意されているのも嬉しい。2018年11月に開業30周年を迎える。
このブルーノートの現在と今後について、株式会社ブルーノート・ジャパン コーポレートコミュニケーション室 兼マーケティング部 マネージャー 原澤美穂さんに、お話しをお伺いしました。(20170223@Bar BACKYARD)
photo by 新美勝
ーーエンタテインメント、飲食、ブライダルの3事業を柱とする業務内容にあって、店舗開発を加速されている印象があります。
原澤:弊社が積極的に出店を望んだというわけではなく、お声をかけていただいたことがきっかけで、現在に至っています。新宿のブルックリンパーラーは丸井さんからお話をいただいて、2009年9月に開業。地下という立地もあり、音楽の要素を含めた飲食店の出店をお誘いいただきました。当初から多くのお客様にご来店いただき、メディアで取り上げられたこともあって、多くの問い合わせをいただくようになりました。一般の飲食業とは違い、我々は音楽・ライヴという要素を持っていて、商業施設のデベロッパーさんが求めている、普通のカフェとは違うニーズに、得意な面を生かせます。それでcafé 104.5や、直営ではない新宿以外のブルックリンパーラーも生まれました。出店とはその土地に新しい場を作ることであり、ただ店を出すのとは違うこと。良いものになる条件とコンセプトが整った時だけ、慎重に進める方針なので、店の数を増やしたり、規模を大きくする計画はありません。2016年は新たな出店はしていなくて、今後も1年に1店舗あるかないかのペースを考えています。デザインにしろ店名にしろ、同じものを展開する方が楽ですが、場所や街によって求められるもの、合うものは変わってくると考えています。
ーーブルーノート東京は開店から10年後の98年に、現在地へ移転。それが最初の転機になったのでは?
原澤:移転する前からコアなジャズ・ファンや音楽ファン以外の方にも足を運んでいただいたことが、お店の成長の上で大きいと思います。ジャズに憧れがある方にとってそれまで体験したことのない空間を体験できることは、今でも変わりません。以前は180席だったのが、現在地に移転して280席に増えて、ジャズだけではなくロックやポップスのアーティストも、このキャパシティだからこそ呼べるようになりました。そのおかげでジャズを難しいと感じていた方にも足を運びやすくなったと思います。そのアーティストの熱心なファンもいれば、仕事帰りの方、お誕生日や記念日に利用される方などが混在できる空間。そんな皆さまに楽しんでいただける空間を作っていきたいですね。我々が目指すものは、最初の10年である程度実現できました。骨董通りの店舗ではジャズ・クラブの雰囲気が強かったために、行きづらいと思う方もいらっしゃった。移転後はジャズを中心にアーティストのラインアップの幅が広がって、来店者数の増加に繋がりました。出演者は基本的にはブルーノート・ジャパンのスタッフが決めています。昨年ハワイにブルーノートが開店したこともありまして、ハワイ店とコミュニケーションを取って、同店の出演者が東京にも来る、という新しい流れも生まれています。
ーーブルーノート東京の上手な利用法を教えてください。
原澤:人数や、どういうシチュエーションで来店されるかによって、色々あります。記念日利用ですと、事前にご連絡をいただければ、お花やケーキをご用意するサービスがあります。終演後に「ハッピー・バースデイ」が流れて、ケーキが登場し、その場に居合わせたお客さまが拍手をすることが自然と生まれますね。当店を特別なひとときを過ごす場所、ととらえていただいているお客さまが多く、それはありがたいと思っています。ライヴ・レストランのいいところは食事の要素が入ること。音楽を真剣に聴きたい方も、ちょっと興味があるだけの方も共存できます。例えば男女がデートでスタンディングのライヴやホール・コンサートに行く場合は、誘う方も誘われる方も難しい部分はあると思いますが、食事が楽しめて、トップ・アーティストのライヴも観られる点で、コミュニケーションを取っていただける。ご結婚されることになった男女のご両親の初顔合わせの場所として利用された、あるフランス料理のシェフのケースが実際にあります。いきなりレストランの会食では緊張されてしまうところ、ライヴとお食事、つまり同じものを観て楽しい時間を過ごすことで会話も弾み、ちょうどいい具合に間が持つんですね。このように利用していただくのは、とてもいいことだと思います。父の日、母の日、お誕生日、結婚記念日。(入場の年齢制限を設けているため)長く通われているお客さまだと、18歳になったお子さまと一緒にご来店される長期計画の実現もあると聞いています。
ーー最近はお一人の女性客が増えていますか?
原澤:日々接客をしているスタッフによれば、ここ2~3年でとても増えていますね。お仕事をされている30~40代の女性が多いです。余暇の時間の過ごし方は、ヨガ等のエクササイズなど音楽に限らず様々でしょうが、知的な刺激を得られるアート全般で体験できる時間を大切にされている方が多いと思います。毎月継続的にジャズにお金を使っているのではないにしても、当店を利用される女性客の増加は、新しいジャズ・リスナーが開拓されているということなのでしょう。
ーー今の仕事をしていて、嬉しいこと、楽しいこと、充実感を味わえる時は?
原澤:ひとつはシンプルなのですが、他の役職も含めてこの業種のいいところは、人々が楽しい時間を過ごしている様子を、毎日目の当たりにできること。例えば食品メーカーですと、ある部分までは見えて、それ以上は見えなかったりする面があるでしょう。ライヴがあって、アーティストとお客様のコミュニケーションが生まれる。その現場に立ち会えることは、自分たちが動いた結果がすぐにわかるし、素晴らしい空間が生まれるということで、仕事のやりがいが実感できます。お一人の男女のお客さまが相席した時に、同じアーティストのファンということで意気投合して、結婚されたという実際の話もあります。これはとても嬉しい事例でした。
ーー大変だったことや御苦労はありましたか?
原澤:元々扱う公演の数が多く、特にこの5年間で増加傾向にあります。その理由は、以前だとオスカー・ピーターソンやディジー・ガレスピーのような大物の1週間公演がありましたが、キャパシティが広くなったために1組の長期公演が少なくなったこと。日本人の出演機会を増やしたり、若手ミュージシャンを紹介するシリーズを行っていることもその原因に挙げられます。公演は1日でも数日連続でも仕事の量は変わらず、やりがいはあるのですが、量が増えてくると一つ一つにもっと手を掛けたいと思ってもなかなか十分に時間が掛けられません。アーティスト、お客さま、そして我々にとって、どうやって良いものを作っていくか、試行錯誤している部分もありますね。
ーーまだブルーノート東京を利用したことのない人へ、メッセージをお願いします。
原澤:ライヴ・レストランという特殊な業態ですので、お電話でご質問をいただくことも多いです。服装や来店時間、一人でも大丈夫ですか、といったお問い合わせです。1度お越しいただければおわかりになると思うのですが、そのあたりは私たちもまだ皆さまに十分お伝えできていません。当店のウェブサイトでもできるだけ情報を掲載していますが、もしわからないことや興味があれば、お気軽にお電話をいただきたいですね。お客様の不安を取り除いて、楽しい時間を過ごしていただくお手伝いをするために、お問い合わせ専門のスタッフが待機しています。皆さまのご来店をお待ちしております。