デンマークが誇るジャズ・ヴォーカリスト、シーネ・エイ。アメリカの王道スタイルを土台にしながら、スカンジナヴィアンとしての個性を輝かせ、ソングライターの才能にも恵まれて、これまで9枚のオリジナル・アルバムをリリース。2003年以来、来日公演を重ねて親日家ぶりがファンの間で知られるシーネが、トリオを率いた日本ツアーの折に、最近の活動などについてインタヴュ-を行った。
現時点での最新作『Dreams』(2017年、ArtistShare)以降の活動は?
SE:次のアルバムの準備をしてきました。レコーディングは終了していて、近々リリースできるところまで進んでいます。デニッシュ・ラジオ・ビッグ・バンド(DR Big Band)との共演作なんですよ。彼らとは10年以上の共演関係があって、アルバムのためのプロジェクトを実現するには良いタイミングだと考えました。ビッグ・バンド用にアレンジされて、まだ録音していない譜面をたくさん持っています。また新作のために私が作曲したナンバーや、新しく編曲したナンバーもあります。ですので過去と現在の素材を組み合わせたプログラムになりますね。

2018年に受賞した《Danish Carl Prize 2018》について教えてください。
SE:デンマークの出版組合が制定している賞です。毎年、出版社が出版社の視点で選出するもので、2017年リリースの『ドリームズ』収録曲「アレッポ」で〈ソング・オブ・ザ・イヤー〉をいただきました。これはジャズに限らず、ロック、ポップス、クラシック等すべての音楽を対象にした賞なので、とても名誉に感じています。
今年8月の《イースタッド・スウェーデン・ジャズ・フェスティヴァル》のステージを拝見しました。
SE:“A Tribute to Svend Asmussen”ですね。私は以前ヴァイオリン奏者といっしょにスヴェンド・アスムッセン(1916~2017)の追悼コンサートに出演したことがあって、スヴェンドが歌手としての私を好きだったことを同祭の主催者が知っていたので、このプロジェクトに私を招いてくれたようです。残念ながら私がジャズ界に入った時にスヴェンドはすでに引退していたので、共演歴はありません。
アスムッセンの素晴らしさは何だと思いますか?
SE:最初に言うべきは、彼が卓越したミュージシャンであること。また彼の映像を観て、素晴らしいエンターテイナーであると思っています。演奏の技術は高いし、常に聴衆を楽しませることを考えている、完璧なミュージシャンですね。

“NAT KING COLE TRIBUTE”コンサートについて教えてください。
SE:9月7日にデンマークのヒンツガルフ スロットで行った、交響楽団よりは編成が小さいデンマーク国立室内楽団との共演ステージでした。同楽団は2012年発表作『Beauty Of Sadness』に参加してくれて、良い関係を築いています。今年はナット・キング・コールの生誕100周年ということで、楽団からオファーを受けました。私が今まで歌ってきたアメリカン・ソングブックは、ピアノ・トリオやギター・トリオのような小編成のバンドとの共演が多かったので、このプロジェクトを聞いた時はとてもわくわくしました。私が聴いていたヴォーカルの作品にはビッグ・バンドやストリングスが入った編成も多く、自分自身がこのような素晴らしい室内楽団とステージでいっしょに演奏できたことは、本当に嬉しい経験です。
今回の来日メンバーについてうかがいます。ジェイコブ・クリストファーソン(注:日本のメディアでは「Jacob」を「ヤコブ」と表記しているが、本稿ではシーネの発音に従った)の美点は?
SE:たくさんありますよ。とても熟練したプレイヤー。そして自己中心的なところがなくて、共演者の演奏によく耳を傾ける人。私の歌唱のフレージングを熟知していて、とても共演しやすいのです。
レナート・ギンマン(b)との共演歴は?
SE:レナートとは初めて共演してから10年以上になります。ジェイコブとモーテン(・ルンド)の中に彼が入ったら、バンド・サウンドがどのようになるのかに、とても期待していました。2010年発表作『Don’ t Be So Blue』(Red Dot Music)のレコーディングのためにスタジオに入ろうとした時、彼はコペンハーゲンの“ジャズハウス・モンマルトル”の音楽監督に就任。その仕事のために私たちのライヴ活動をキャンセルしなければならなくなる状況は避けたかった。というわけでその後、同店の勤務が終了したことを機に、私のバンドに参加してくれました。安定していて、権威をも感じさせる演奏を提供するベーシストです。
モーテン・ルンド(ds)との共演関係も長く続いています。
SE:モーテン以上のドラマーを得られないからです。演奏がとてもエレガント。私たちは満足することなく、常に可能性を探っています。新しいグルーヴ感を見つけたいのです。ヴォーカリストのバンドでは叩き過ぎるドラマーがいますが、彼は聴覚を研ぎ澄ませて、適切な音量でドラム・サウンドを供給してくれます。

2010年代のアルバムを振り返ると、1~2年ごとに新作がリリースされています。インタヴューの冒頭でお話しされた次作は、いつ発表されますか?
SE:まだはっきりと決まったわけではありませんが、デンマークでは今年11月発売の予定。アメリカと日本での発売に関しては、現在調整中です。
12月に控える“アメイジング・クリスマス”について教えてください。
SE:オペラ歌手アンドレア・ペレグリーニ、ソウル歌手クリスティーナ・ボエルスキフテとのトリオ・プロジェクトです。私たちはジャンルが異なりますが、それぞれの個性を組み合わせたショーを考えています。デンマークで13~14回のツアーを行う予定です。3人はお互いに良い感情を抱いており、とてもいいサウンドを生み出しています。クリスマス・シーズンは人々が外出して音楽を聴く機会が増える時期。私はこれまでにデンマークのビッグ・バンドと組んで、クリスマス・ツアーをしてきました。
3人は過去に共演した経験がありますか?
SE:アンドレアと私はいくつかの場面で共演歴があって、大きなショーで一人ずつ歌い継ぐような形でステージを分け合った経験はあります。3人では今回が初めてで、それぞれジャンルは異なりますが、この3人だからこその成果が生まれると思っています。

今後のスケジュールを教えてください。
SE:2020年の多くはアメリカで活動する予定です。現地のミュージシャンと共演する、ということです。私たち夫婦は住む場所を変えることによって、新しい刺激を受けたいと考えています。半年以内にコペンハーゲンから移住します。アメリカには私のお気に入りの、共演できるミュージシャンがいますから。
(2019年9月19日、モーション・ブルー・ヨコハマにて取材)