モダン・ジャズ史上で最も偉大なサックス奏者の一人であるジョン・コルトレーン(1926~67)の完全未発表スタジオ・アルバムが、録音から55年の時を経て6月29日(金)に全世界同時発売されることが明らかになった。
今回発表されるアルバム『ザ・ロスト・アルバム』(原題:Both Directions at Once: The Lost Album)は、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)からなる“黄金のカルテット”と呼ばれる伝説のグループで、63年3月6日に米ニュージャージーのルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオで行った公式セッションを収録したもの。レコーディングは、マンハッタンのジャズクラブ“バードランド”での2週間公演期間中の昼間に行われたが、バンドはその翌日にも同スタジオに戻り、名盤『ジョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ハートマン』を録音している。数々の名作を残した絶頂期のコルトレーンの姿を余すところなく捉えた、アメリカ音楽史の歴史的遺産といっても過言ではない音源である。
今回発表されるのは、レコーディング・セッションの記録は残っていたものの海賊盤も含めてこれまでまったく世に出たことがなかった幻の音源。マスターテープの所在も不明になっていたまさに「失われた」音源だった。だが、録音終了後にコルトレーンがスタジオから持ち帰り、当時の妻ナイーマに渡していたモノラル録音のリファレンステープが彼女の遺族によって発見され、このたび録音から55年を経て、コルトレーンが当時在籍していたインパルス・レーベルより発表されることとなった。
アルバムの内容はマスターテイク全7曲(約47分)のうち、「アンタイトルド・オリジナル11383」「アンタイトルド・オリジナル11386」はコルトレーンの未発表のオリジナル曲。代表曲「インプレッションズ」と初録音のスタンダード曲「ネイチャー・ボーイ」は、マッコイ・タイナー抜きのトリオ編成での貴重な録音。そしてこれまで非公式録音のライヴ盤でしか世に出ていなかったコルトレーンのオリジナル曲「ワン・アップ、ワン・ダウン」だ。
今回のアルバムについて、コルトレーンの友人であり現役最高峰のサックス奏者ソニー・ロリンズは、「これはまるで、巨大ピラミッドの中に新たな隠し部屋を発見したようなものだ」と喜びのコメントを明らかにしている。また現在インパルスを管轄するヴァーヴ・レーベル・グループの社長兼CEOダニー・ベネットは、「現在ジャズは21世紀のオルタナティヴ・ミュージックになりつつありますが、誰もジョン・コルトレーン以上にジャズの境界を壊す表現を成しえたアーティストはいません。彼は音楽の流れを変えた先見の明があり、この“失われた”アルバムは一生に一度の発見と言えます」と語っている。
アルバムは、マスターテイク7曲を収録した通常盤と、別テイク収録のボーナス・ディスク付2枚組のデラックス・エディションの2形態でリリースされる。わずか40年の生涯ながら、ジャズ史のみならず、アメリカ音楽史に偉大な功績を遺したジョン・コルトレーンの絶頂期の演奏が堪能できる、全音楽ファン必聴の作品と言える。
アルバムのティザー映像も公開となった。