インターネット上で調べものをしている時に偶然、意外な場所で自分の名前を見つけることが時々あって驚かされる。「All Music」と並んで、私が日常的に活用している音楽情報サイトの「Discogs」は、アイテムによってはAll Musicよりも詳しい場合があるため、裏取りの意味でも両者をチェックするのが常だ。そのDiscogsに、何と私のページが存在する。
https://www.discogs.com/artist/1922631-Hiroki-Sugita
トップ・ページにはMusic Birdのスタジオで撮影された私の顔写真を使用。プロフィールには「Japanese jazz critic. Born in Tokyo in 1960. Has written for many Japanese jazz magazines including Swing Journal, Jazz Japan, Jazz Life, Jazz Perspective, etc」とある。続いてミュージシャンのページと同様に、アルバム・リストが掲載されているのだが、もちろん私のリーダー作であるはずはなく、これは私が日本語ライナーノーツを書いた作品を、発売順に並べたものである。1990年の『Johnny Coates, Jr. / Portrait』で始まり、98年の『Francis Lockwood Trio / Jimi’s Colors』を経て、2019年に至る199枚を収録。私がこれまでに執筆したライナーノーツは約1800タイトルなので、その1割強をカヴァーしていることになる。これは日本の誰かが調査した情報をDiscogsに伝えることで成り立っていると考えるのが自然だろう。
PJの「PLAYLISTS」に掲載の楽曲の試聴ツールでもあるSpotifyは、キース・ジャレットのECMオフィシャル・プレイリストを提供していて、拙稿でも紹介済だ。
そのSpotifyに私の名前が入ったプレイリストがアップされているのを、私は今日知った。タイトルは「70年代のジャズにこだわったベスト/杉田宏樹(ジャズ1000)」。私とSpotifyの共同関係でアップされたものではないことを踏まえて、これは何か?を考えて思い至ったのは、私が寄稿した共著作。『ジャズ知られざる名盤ベスト1000』(96年、学研)は、20名の評論家が自薦の50枚を挙げた内容で、私は「70年代の~」のテーマで書いている(2000年に『ジャズ名盤ベスト1000』に改題して文庫化)。Spotifyのプレイリストは私が選んだ50枚のうち、10枚から各1曲を選んだもので、選者らしき「s.Ikeda」のクレジットがある。この人が私の素材を元に、リストを作成したのだろうか。いずれにせよ、ありがたいことである。
共著作の冒頭で、私は以下の序文を記している。「アルバムの選択においては、編集者からの要請もあって『超名盤』は外し、知られざる名盤に力点を置いた。またこの種の『ジャズ・アルバム本』で紹介されてきたような、50~60年代ものはできるだけ避けてみた。というのも、ぼくがリアル・タイムでジャズを意識的に聴き始めたのが、70年代半ばであり、現在その実り豊かな成果に反して、一般的評価が低い70年代のアコースティック・ジャズを、今一度きちんと認識すべきではないかと、日頃から考えているからである」。
著書名にある通り、アルバムにフォーカスした中で、私は代表的な楽曲にも言及した。Spotifyのプレイリストは拙稿を踏まえた上で選曲しており、その点に私は唸った。
例えばロニー・キューバー(bs)/エンリコ・ピエラヌンツィ(p)『Inconsequence』に関してはこんな風だ。「南青山に“ズビ”という名のジャズ・バーがあった。ある晩ぶらりと入った時に流れてきたのがタイトル曲。演奏はクールなのに、ぼくは未知の名曲を発見した喜びで興奮していた」。ロニー・マシューズ(p)『Song For Leslie』のタイトル曲に対しては、「1曲目が名曲であることが名盤としての必須条件だ。その意味で本盤は、ピアノ・トリオの隠れたる名盤の名に恥じない一枚。しかもマシューズのオリジナルなのがいい」。
クリス・ウッズ(as)『From Here To Eternity』の「煙が目に染みる」については、「ソニー・クリスのソウルフルなコブシと、フィル・ウッズのテクニックを合わせ持つアルト奏者がクリスなのである。極め付きはA③。このソロはおおげさではなく、クリス一世一代の名演だと思う」。エルヴィン・ジョーンズ(ds)『Earth Jones』の「スリー・カード・モリー」は「エルヴィンが80年代に残した最高作と言っていい。再演のA①をアップ・テンポにしたのが大正解」。
スティーヴ・キューン(p)『Mostly Ballads』の「ダニー・ボーイ」についてはこんな具合だ。「60年代の鮮烈なデビュー以来、キューンに対するイメージを、いい意味で変えてくれたのが本作。キューンって、こんなに暖かい音を出す人だったのか、と再認識したからだ。⑥はエヴァンスに劣らぬ演奏」。タビー・ヘイズ『The New York Sessions』の「ユー・フォー・ミー」は、「初めてNYに乗り込み、米国人トリオをバックにクラーク・テリーと共演した本作は、彼の素晴らしさがずばりとわかる好盤。①のセンスは本場のジャズメンを牽引するほど、自信が漲っている」。
同書の中で紹介した他のアルバムを含めて、20年以上前に書いた拙稿は今も同じ思いである。