12月4日の19:30からコペンハーゲンのブレーメン・シアターでDMA Jazzの授賞式が始まるのに先立って、18:00に会場至近のレストランで関係者を迎えた立食パーティーが開かれた。主催者であるJazz Danmarkの委員長と文化担当大臣の挨拶に続いて乾杯。しばらくJDのスタッフと話をした後、カウンターで食事をしていると、初対面の男性に話しかけられた。「ニュー・ジャングル・オーケストラのリーダーです」と自己紹介してきたので、「Pierre Dørge?」と聞くと本人だった。
実は2月に《Vinter Jazz》の取材のためにこの地を訪れることが決まった時、ピエール・デルジェ&ニュー・ジャングル・オーケストラの出演ステージを含めて滞在スケジュールを組んだのだが、その後で出演日が変更されたために結局観ることができなかった、という一件があった。当時すれ違いになってしまったアーティストと、思わぬ形で出会えた嬉しさから、2月の一件やこれまで何度かレヴューや記事を書いたことを一気に伝えた。
デルジェは1946年コペンハーゲン生まれ。80年から同オーケストラを率いており、伝統的なジャズ(デューク・エリントン)、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、現代音楽と、多彩な要素を融合したユニークな音楽性を誇る。拙著『ヨーロッパのJAZZレーベル』の「スタント・レコード」の紹介ページでは、オーケストラ結成20周年作『Zig Zag Zimfoni』に関して、「北欧、アラブ、ラテン、フリー等の混合サウンドが知性とパワー全開で迫る」と記した。
私の反応に感激した様子のデルジェは、自身のキャリアを熱心に語ってくれた。来日公演は1度だけあって、ピットインで南博(p)と共演した時の思い出や、オーケストラ始動前の初リーダー作『Ballad Round The Left Corner』(79年、SteepleChase)の話が印象的だった。自身のCDを渡したいというので、翌日ホテルのレセプションに預けてくれることに。そして実際に受け取った袋の中には、7枚のCDが入っていた。『Live At Birdland』(Stunt)は99年にオーケストラがニューヨークのクラブに出演した際の実況録音作。デルジェの自作曲を柱に、エリントン・ナンバーを点在させて、ジャズの伝統を踏まえながら独創性をアピールした内容だ。リトル・ビッグ・バンドと呼べる10人編成は、このサイズならではのフットワークのよさから生まれる楽しさが味わえる。
オーケストラの26枚目にあたる最新作『Ubi Zaa』(SteepleChase)は、結成35周年記念盤。米国の若手コルネット奏者カーク・ナフクを迎えた2015年のツアーは、デルジェにとって60年代以降の自分のキャリアを反映したサウンドだと感じたという。夫人でピアニストのイレーネ・ベッカーが作曲した「ソング・フォー・オーネット」は、夫妻が影響を受けたオーネット・コールマンに捧げたナンバーで、オーケストラがゆっくりと大きなうねりを描く。元メンバーで本作録音の直前に逝去したヒューゴ・ラスムッセン(b)に因んだ「ヒューゴ・アット・ブレソ」は、混沌と秩序が融合したサウンドが面白い。
経済面を含めて運営が楽ではない大所帯のバンドを、37年間も継続させ、コンスタントにアルバムも制作しているピエール・デルジェ。ハートウォーミングな人柄に触れたことは、今回のコペンハーゲン訪問の大きな収穫であった。