英Expansionは1986年に設立されたソウル・ミュージックを得意とするレーベルだ。原盤制作とコンピレーションの2本立てで、特にいくつかのシリーズを継続・新規発表している後者に関しては、音楽ファンからの好感度が高い。中でも2000年にスタートした年度版の『ソウル・トゥゲザーネス』は、レーベル最長を誇る人気シリーズである。私は2010年版を初めて新譜で購入して以来、毎年の新作を楽しみにしていて、バックナンバーも新品と中古で揃えたほどのお気に入りだ。
毎回必ず発見があって、今回は最新の2017年版を紹介したい。最大の収穫は4曲目の「Love X Love」(読み方は「ラヴ・タイムズ・ラヴ」)。アーティスト・クレジットはThames River Soul feat. Kenny Thomasで、3人共インコグニートのメンバーであるフランシスコ・サレス(g)、フランシス・ヒルトン(b)、フランチェスコ・メンドリア(ds)によるユニット。プロデューサーはインコグニートのリーダー、ブルーイというわけで、日本でも毎年の来日公演が定番になっている老舗ブリティッシュ・ファンク・バンドの派生ユニットと言える。そこに加わったケニー・トーマスは英国のブルーアイド・ソウル歌手で、90年代はグラウンドビートを取り入れた音作りやヤング・ディサイプルズ(アシッド・ジャズ)とのコラボ、2000年代はレヴェル42のツアー・メンバー等、ジャズの隣接音楽との関係を続けてきた。
この曲のオリジナルはグラミー賞《最優秀男性R&Bヴォーカル・パフォーマンス賞》を受賞したジョージ・ベンソン(g,vo)の80年作『ギヴ・ミー・ザ・ナイト』に収録されており、「愛の幾何学」の邦題がついた。ロッド・テンパートンが書き、クインシー・ジョーンズがプロデュースしたナンバーは、このチームが生み出したマイケル・ジャクソン「ロック・ウィズ・ユー」と共通するテイストを感じさせる。テムズ・リヴァー・ソウルは原曲のイメージを損なわずに、ブラジル音楽とファンクをミックスしたアレンジと、ベンソン以上にソウルフルな歌唱によって、2010年代のサウンドに仕上げている。
コンピレーションをさらに味わう方法が、オリジナル・アルバムへ辿っていくこと。この曲の初出作『Volume 1』は4曲入りのミニ・アルバムで、オマーの「ウィル・イット・ゴー・ラウンド・イン・サークルズ」(ビリー・プレストン)、ヴァネッサ・ヘインズの「天国への階段」(レッド・ツェッペリン)、イマーニの「アイ・ソート・イット・ワズ・ユー」(ハービー・ハンコック)と、ヴォーカリストをゲストに迎えた音作りが特徴。試聴した結果、同作に関しては「ラヴ・タイムズ・ラヴ」が群を抜く出来だとわかった。『ソウル~』の選曲者であるリチャード・シアリングとラルフ・ティーの見識を再認識したのである。
『ソウル・トゥゲザーネス2017』には他にもオマーをフィーチャーしたロス・チャーリーズ・オーケストラ「ヒストリー」、チャカ・カーンを想起させるタキシード「セカンド・タイム・アラウンド」、U-Nam(g)参加のジェームス・デイ「イッツ・オール・ディヴァイン」等、良曲が多数。現在の私的ヘビーローテンションCDである。