米国西海岸のジャズ・シーンで中心的な役割を担う非営利団体のSFJAZZは、83年にエグゼクティヴ・ディレクターのランダル・クラインが創設。同年から《サンフランシスコ・ジャズ・フェスティヴァル》を主催し、同地におけるジャズの発展に多大な貢献を果たしてきた。2000年にはコンサート・シリーズの“SFJAZZスプリング・シーズン”が発足。その芸術監督を務めるジョシュア・レッドマンの発案によって生まれたのがSFJAZZコレクティヴだ。ジョシュア(ts,ss)が芸術監督を兼任するセプテットはいわゆる顔見世興行的なオールスターズとは異なり、「ジャズの過去・現在・未来に対する開かれた視点を反映させた継続的なアンサンブル」を基本コンセプトとして、現在のミュージシャンに影響を与えた50~60年代の作曲家たちの楽曲にスポットを当てると同時に、アンサンブルのミュージシャンを念頭に置いたメンバーのオリジナル曲もレパートリーとした。
その最初の成果である『Inaugural Season Live 2004』(SFJAZZ Records)は、オーネット・コールマンの楽曲を1枚に、そしてメンバーのオリジナル曲を2枚に収録したCD3枚組で、発売はウェブサイトでの5000枚限定盤だった。翌2005年にはこの3CDからの抜粋曲による1CD『SFJAZZ Collective』が、当時のジョシュアの所属レーベルであるNonesuchから登場。国内盤でもリリースされたことによって、一気に日本でその存在が知られることとなった。

以後、SFJAZZZコレクティヴはメンバー・チェンジを繰り返しながら、毎年の新作リリースを恒例化。2024年制作の『Twenty Year Retrospective Vol.01, 02, 03』はタイトル通り20年間のキャリアを振り返ったLP5枚組で、過去のアルバムからの選曲が4枚、そして『Vol.03』がスタジオ録音の新曲を収録している。

2023年以来、2度目のブルーノート東京への出演となった今回の3日間連続公演、その最終日のファースト・ステージを観た。セプテットがステージに揃ったところで、マイク・ロドリゲス(tp,flh)がメンバーを紹介。2021年から音楽監督を務めるのがクリス・ポッター(ts,ss,b-cl)であり、このラインアップでは適任と言っていい。そのポッターから当夜の曲目に関して、「20周年を記念した7パートの組曲を演奏する」とアナウンスされる。前述の最新作『Vol.03』がまさにそれで、SFジャズ・コレクティヴの歴史にインスパイアされたメンバーが、各1曲を提供した内容であり、そのライヴ・ヴァージョンがこれから繰り広げられることが明らかになって、さらに期待感が高まった。

オープニング・ナンバーはエドワード・サイモン(p)作曲の「オープニング」。全員の合奏によるイントロがピアノ・トリオ~ヴィブラフォン&ピアノ・ユニゾンを含むカルテット~3管セプテットでテーマが完成すると、サイモンが先発ソロを担う。2番手のポッターによる雄弁なソプラノ・ソロを聴きながら思い出したのが亡きウェイン・ショーターだった。もちろんタイプは異なるが、現在のソプラノ奏者にあってトップの実力者であることは間違いないと実感。スタジオ録音にはなかったソプラノ・ソロの追加は、1曲目からポッターにスポットが当たって、ファンとしては大歓迎だ。3番手のトランペット・ソロが続き、合奏テーマに戻って場面転換へ。

サンチェス作曲の「ザ・ゴールデン、ザ・ビューティー、アンド・ダウン・ザ・ヒル・ザ・ソロウ」で耳目を集めたのはウォーレン・ウルフ(vib)だった。昨年8月に意欲作『History Of The Vibraphone』を、また先頃最新作『Life』をリリースして勢いに乗るヴィブラフォン奏者は、4本ではなく2本のマレットを使用して、速いパッセージを織り込みながらの集中力漲るプレイで観客を魅了。サンチェスがソロを引き継いだ後の合奏で、ウルフは4本マレットを使ってバンド・サウンドに彩りを添えた。

再びピアノが次の楽曲へのブリッジを担い、続けて始まったのがマット・ブリューワー(b)作曲の「リチュアル」。ベース・ソロで始まり、ポッター(b-cl)を含むテーマを合奏。ソロ・パートに移ると、ポッターがテナーに持ち替えてスローに始動。やがて力演が生まれるあたり、マイケル・ブレッカー逝去後のテナー界No.1は、やはりポッターなのだと再認識した。それにしても近年のレコーディング活動には、目を瞠るものがある。リーダー作だけではなく、カール・アレン『Tippin’』等への参加仕事や、SFJAZZコレクティヴでのリハーサルを含む長時間滞在は、さぞかし多忙かと想像できるが、それらをすべて成立させているのは、マイケルが歩んだキャリアと重なる部分があって、リーダーとサイドマン活動を両立する生き方を実践しているポッターは、故人の遺志を受け継いでいる自覚があるのかもしれない。


再びピアノのブリッジで始まったのが、マイク・ロドリゲス作曲の「ワン・フォー・チック」。2021年に逝去したチック・コリアへのトリビュート・ナンバーで、サイモンのプレイは確かにチックを連想させるもの。そしてヴィブラフォン&ピアノ・ユニゾンを含むカルテットによるテーマも、チックの書法を意識したと思えるメロディだ。続く先発ソロをとるウルフを観ながら、この日に訃報を知ったロイ・エアーズ(vib)の姿が重なった。それは両者の音楽的な共通性ではなく、かつてブルーノート東京でエアーズのライヴを観た時の記憶が甦ったからだ。ウルフ作曲の「オクトーバー・イン・サンフランシスコ」では、ピアノとヴィブラフォンの短いリレーが続き、最後に合体。もう一人のテナー奏者であるダヴィッド・サンチェスの力演も光った。


作曲者のケンドリック・スコットがスネアドラムを手で叩くイントロの「ウィットネスト・バット・ノット・メジャード」では、ポッターがソプラノに持ち替え、スコットがコーラス、サンチェスがコンガを担当し、芸達者ぶりを披露。スタジオ作と同様、終盤でポッターがフィーチャーされてエンディングに至った。

いよいよ組曲の最終パートとなる「ホリデイ・イン・サンフランシスコ」がスタート。手拍子とコンガ、ドラムがラテン・サウンドを演出し、たちまち祝祭空間を現出する。バスクラリネットを含む3管~トランペット~ヴィブラフォンと主役が移動。ウルフがソロをとり続けた後、ミディアム・テンポに変わって、作曲者のポッターがテナーを構えてステージ中央へ。スウィンギーなカルテット状態の中、音楽監督が当夜最後のソロイストを演じてくれた。3管ユニゾンが入った合奏に至り、全員でキメて落着。
曲によって、『Vol.03』にはなかったソロイストが加わったり、アレンジを変えたりと、この組曲がライヴを重ねることによって成長しているのだと感じた。ポッターが改めてメンバーを紹介し、最後に「My name is Chris Potter」。歴代のメンバーが築いてきた実力者集団の現在を堪能した一夜であった。

【Set List (1st)】
■①Opening(Edward Simon)②The Golden, The Beauty, And Down The Hill The Sorrow(David Sanchez) ③Ritual(Matt Brewer)④One For Chick(Mike Rodriguez)
⑤Octobers In San Francisco(Warren Wolf)⑥Witnessed But Not Measured(Kendrick Scott)⑦Holiday In San Francisco(Chris Potter)
■クリス・ポッター Chris Potter (ts,ss,b-cl,music director)、ダヴィッド・サンチェス
David Sánchez (ts,congas)、マイク・ロドリゲスMike Rodriguez (tp,flh)、 ウォーレン・ウルフ Warren Wolf (vib)、エドワード・サイモン Edward Simon (p)、マット・ブリューワー Matt Brewer (b)、ケンドリック・スコット Kendrick Scott (ds,b-vo)
■『Twenty Year Retrospective Vol.03』全曲試聴:
●取材協力:ブルーノート東京