昨年11月発売の最新作『モア・ヒューマン』を記念した来日ツアーの最終日を観た。前回の来日は2015年10月。前作『フェイシング・ザ・ウォール』の発売後のタイミングだった。今年2月にコペンハーゲンの《ウィンター・ジャズ》でラーシュ・トリオ+ハンス・ウルリクを観ていて、その時はレギュラーのトーマス・フォネスベック(b)が空港で足止めを食ったため、急遽別のベーシストが参加するアクシデント付きのステージ。今回、個人的には仕切り直し的な意味もあるライヴ鑑賞となった。
新作記念とは言っても、第1部の全6曲のうち、該当するのは2曲にとどめ、セット・リストは過去のレパートリーを取り混ぜた内容。一般的に言えば、新作の収録順に演奏するケースもあって、それはライヴ・コンセプトに沿ったことなのだが、第2部の選曲も含めてラーシュは予定調和を好まないタイプであり、演奏中にユーモア・センスを発揮したり、内部演奏を取り入れることを知るファンには納得のプログラムだったと思う。第1部で注目したシーンは「ノビリティ・アンド・ビューティ」の冒頭。ピアノ独奏のイントロは日常的な風景なので見過ごされてしまいがちながら、そのパートにおいてラーシュが何を考えているのか、を想像してみた。トリオ合奏のテーマを直前にした序文、の一般的な役割であるばかりでなく、個人的にトリオ・サウンドのイメージを膨らませているのではないだろうか。ドリーミーなテーマに続くピアノがアップテンポでエネルギッシュに展開し、ユニゾンのエンド・テーマに至る演奏が、そのような想像をもたらした。チャーリー・パーカーの「コンファーメーション」を下敷きにしたラーシュ曲「コンフギュレーション」は、音楽家としての基盤の一部となるビバップへのオマージュ。新作からの「トゥー・グッド・トゥ・ミー」はラーシュらしい美旋律を持つ、愛らしいバラードだ。
第2部の幕開けとなった「ヒルダ・プレイズ」は新作のアルバム・カヴァーを描いたラーシュの孫娘に捧げたナンバー。新作にはもう1曲、同様の「ヒルダ・スマイルズ」が収録されており、裏ジャケットに写る作画中の幼い彼女がラーシュの現在の作曲インスピレーションとして大きな役割を果たしていることがわかる。心温まるこのバラードとは対照的に、スタンダードの「恋とは何でしょう」では、攻撃的なピアノ・プレイでシリアスな部分を前面に出した。作曲のヒントと言えば、ワイン・コレクターのラーシュが書いた「ラフォルト・デ・ラトゥール」も好きなものからの成果だ。ドラマーでラーシュの実息であるポール・スヴァンベリーを初めて観たのは2007年、ストックホルムの“グレン・ミラー・カフェ”で、当時はまだ学生だった。その後ラーシュのグループで来日を重ね、他のプロジェクトでも活動。2月のコペンハーゲンでも感じたことだが、あれからちょうど10年が経って、かなり腕を上げたと思う。スウェーデンのトップ・トリオをたっぷりと楽しんだ一夜であった。