2000年以降のノルウェー・ジャズ界で、ピアノ・トリオのトップ・ランナーとして実績を積み上げてきたのがヘルゲ・リエンだ。2000年録音のデビュー作『これからの人生』で輸入盤ウォッチャーの注目を集めると、来日公演と日本制作盤の連発によって評価と人気を確立。フローデ・ベルグ(b)+クヌート・オーレフィアール(ds)との不動のメンバーは、2013年にペル・オッドヴァール・ヨハンセンへのドラマー交代劇があり、トリオは新たな局面を迎えた。2014年の新生トリオ第1弾『Badgers & Other Being』に続く新作『Guzuguzu』の国内リリースのタイミングに合致した来日である。
冒頭のMCでヘルゲは、前半を新作中心、後半をその他のレパートリーで演奏するとアナウンス。新作は日本語のオノマトペを曲名にしたコンセプト・アルバムで、作品名に日本語を拝借した2011年作『Natsukashii』を知るファンには、ヘルゲの日本語志向がさらに高まった成果と受け止められるはず。その背景には日本在住経験があるプライベート・パートナーの存在が挙げられ、夫妻の協調関係がヘルゲの仕事面にも良い結果をもたらしていることが明らかだ。
蓋を開けてみるとプログラムは、最新作の全8曲を収録順に演奏するものだった。「ゴロゴロ」「ニコニコ」「クルクル」といった繰り返し音の曲名は、我々にとってファニーな語感があり、ヘルゲが曲名をアナウンスすると客席から笑い声が起こったのは事実。しかし演奏は映像的なイメージを喚起する、ヘルゲらしい作曲センスを反映したトリオ・サウンドだ。特にベルグの音色の美しさが際立つアルコ・ベースが印象的。「チョキチョキ」はピアノとドラムスの切れ味鋭いプレイが曲名を体現し、高速ピアノで山場を作る。本編と呼べる新作パートが終わると、トリオはそれまでの縛りから解き放たれたかのように、フリー・スタイルへと移行。ヘルゲの内部演奏を含むトリオのインタープレイは、やがて一つにまとまり、最後はピタリとフィニッシュ。アンコールでは前作からの「フォークモスト」を選曲して、ファンの期待に応えてくれた。新宿ピットインは60分の2セット、入れ替え無しが基本だが、ノルウェーのミュージシャンは60分程度の1セットの場合がある。その理由は現地と同じ流儀だからなのだが、当夜は95分の1セットで、親日家らしいヘルゲの折衷プログラムとなった。