1980年代にマイルス・デイヴィス、フレデイ・ハバード、セルジオ・メンデスのライヴを助演し、スタジオ・ミュージシャンとして多数のテレビ番組の音楽を制作。その後はチャカ・カーン、スティーリー・ダン、綾戸智恵らをサポートし、ミュージシャンから絶大な信頼を寄せられる腕利きのバイプレイヤーの地位を確立しているのがジョン・ビーズリー(1960~)だ。90年代の2枚のWindham Hill盤を経て、2000年代に進んで『Letter To Herbie』(2008年)、『Positootly!』(2009年)と初期Resonanceからの2タイトルによって、一枚看板で認知された印象がある。
そのキャリアが大きく飛躍したのは、2016年発売作『MONK’estra Vol.1』(Mack Avenue)で、2017年に生誕100周年を迎えるセロニアス・モンクの楽曲を、17人編成のビッグ・バンドで演奏した内容。モンク協会が主催する《インターナショナル・ジャズ・デイ》で音楽監督の重責を担うビーズリーが、同じピアニストとしてこのソング・ブック・ブロジェクトに取り組んだことは、自然な流れとして理解できる。同作がグラミー賞《ベスト・ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム》にノミネートされると、今年発売の最新作『同Vol.2』も先般発表された第60回グラミー賞の同部門の候補にラインアップ。2018年1月28日にNYで開催される授賞式に注目が高まる状況になっている。
裏方としての豊富な経験が大編成のリーダーであることを可能にしているのは言うまでもないが、そのルーツがピアノにとどまらず、10代にロック・バンドでギター、ドラム、サックスを演奏し、高校のオーケストラでオーボエを吹いたというマルチな楽器経験にあることは指摘しておきたい。
2日連続の東京公演はアルバムとは異なる4管の7人編成で、小型版モンケストラと呼ぶのが正しいだろう。初日のセカンド・セットは、「今回がリーダーとしての初来日」とのビーズリーのMCでスタート。「ブレイクス・セイク」はドラムのシンコペーションによって新鮮さを生むテーマから、ハイノートを交えたトランペットのソロ~テーマ変奏と進行。さらにトランペットと3管のコール&レスポンスを経て、バンド合奏で静かに着地した。そのままメドレーのように始まった「ギャロップス・ギャロップ」は、ボブ・シェパードのソプラノを含む4管ユニゾンが中盤と終盤に出てきて、フル・サイズのモンケストラの最小ホーン・セクションが持ち替え可能な2名を擁するこの4人なのだと納得。
「クリス・クロス」は44年にモンクが提案したメアリー・ルー・ウィリアムス、バド・パウエルとのピアノ3台のプロジェクトのために書いたオリジナルが原曲。リハーサルを行ったものの、結局形にはならず、7年後の51年のBlue Noteセッションで手を加えて録音。モンクのリーダー・セッションにもかかわらず、初出はミルト・ジャクソン名義作だった(この件に関しては『セロニアス・モンク 独創のジャズ物語』ロビン・ケリー著に詳しい)。モンケストラの演奏ではホーンズとスネアドラムでユニゾンを作り、フットペダルでカウベルを使用したテリオン・ガリーが光った。アルバム・ヴァージョン同様、メドレーでプレイした「アグリー・ビューティー/パノニカ」はトロンボーンを中心に、ミュート・トランペット、ダブル・クラリネットが入って、テーマの中だけでも多彩な風景を描く。
「原題は『ジャスティス』で、モンクの投獄生活を経て曲名が変更された」とビーズリーが紹介した「エヴィデンス」は、急速調のフォービートで、ホーンズが自由に入り乱れる展開。続くピアノ・トリオのパートに進むと、アップ~ミディアム~アップとテンポが変化して、このあたりはモンク・ヴァージョンにはないチャールズ・ミンガス的なアイデアと聴いた。
シェパードとラショーン・ロスがステージから退いたラスト・ナンバーの「ライト・ブルー」は、ピアノをメインに、テナー・ソロを経て静かにエンディングへと至る。以上全6曲は『Vol.1』から1曲、『Vol.2』から5曲の構成であった。
終演後ロビーに行くとシェパードがそこにいたので立ち話。モンケストラのライヴは通常15名なのだが、7人編成は今回が初めてで、この人数用に再アレンジしたとのこと。「デューク・エリントンがフル・バンドではなく、スモール・バンドでツアーしたのと同じだよ」。
- 2nd set:①Brake’s Sake ②Gallop’s Gallop ③Criss Cross ④Ugly Beauty / Pannonica⑤Evidence ⑥Light Blue
- John Beasley(cond,arr,p,key) Bob Sheppard(as,ss,cl) Gregory Tardy(ts,cl) Rashawn Ross(tp) Francisco Torres(tb) Benjamin Shepherd(b,el-b) Terreon Gully(ds)