最近タビー・ヘイズのライナーノーツを立て続けに執筆する機会があった。ライナーには取り扱い説明書の要素が必要とされるので、執筆に際してはアーティストのバイオグラフィーとディスコグラフィーを確認するのが、私の仕事の流儀だ。カタログものの場合、その作品を知っているつもりでも、調べてみると発見があったりするので面白い。タビーのアルバムのCD化が本格的に始まったのは90年代からで、2000年代に進んで未発表作を含めて加速した。私が初めて購入したタビーのCDは90年発売の『The New York Sessions』(CBS)。61年に初めてNYを訪れて、クラーク・テリー、ホレス・パーランら現地著名人と共演した『Tubbs In New York』(Fontana)に、未発表4曲を追加した全10曲。本作を紹介した拙著『21世紀に伝えたいJAZZ名盤250』(2000年刊)で、私は以下のように記した。「名前を聞いただけで血が騒ぐタイプのジャズマン。CD化の情報が入れば即ディスクユニオンに走る。そんな気持ちにさせる男、そうはいない」。
冒頭の話に戻ると、今回の下調べで注目したのが、2015年発売のDVD『A Man In A Hurry』(Mono Media Films)だ。タビー(1935~73)は2015年が生誕80年の節目に当たり、伝記本『The Long Shadow of the Little Giant』(Simon Spillett著、Equinox)が刊行された。同DVDは未入手だったので、アマゾンで購入。より広く知らしめたいと思って、本稿で取り上げた次第である。
55分の映像作品はタビー&ビッグ・バンドのモノクロ動画と、多数の関係者による短いコメントの連続が、イントロダクションとなってスタート。伝記本の著者スピレットが語り手となって、64年のインタヴュー、パーカー&ガレスピーに影響を受けて髪型を変えたエピソード、ヴィブラフォンとフルートの演奏シーン、バンド・メンバーで出演したチャプリン監督の57年作『A King In New York』、チャールズ・ミンガスと共演した63年映画『All Night Long』等の興味深いシーンが次々と現れる。ロニー・スコットと共に運営した50年代のジャズ・クーリアーズが、米ウェスト/イースト・コーストでもないロンドンのサウンドだった、というレコード・ディーラーの証言には共感を覚えた。
悪癖と2度の手術のため、38歳の若さで逝去したタビーは、長年の鎖国政策を実施していた英国からの、米国との交換アーティストの第1号として61年に渡米した栄誉を受けたジャズマンだった。本稿がタビーの偉大な業績を知るきっかけになれば、幸いである。