2010年に『ストラッティン』でアルバム・デビューした纐纈歩美(as)は、ほぼ毎年新作をリリースし、順調にキャリアを重ねている。アメリカやノルウェーで現地ミュージシャンと共演したレコーディングは、20代の邦人女性アルト奏者としてはかなり恵まれた環境を継続してきたと言っていい。昨年10月発売の通算第7弾『アクアレール』は、結成から3年になるレギュラー・バンドの今を記録したい、との思いから生まれた。纐纈にとっては2011年の第2作『デイブレイク』以来となる邦人ミュージシャンとの共演作になる。
レコーディング・メンバーで臨んだステージのオープニング曲に選ばれたのは、新作からの「ブラック・キャンヴァス」。纐纈は2015年に川村記念美術館で行った「ステラに捧げるジャズ」のために、同館でステラの作品からインスピレーションを受けて同公演のために作曲しており、それは初めての試みだった。70年代に復帰後のアート・ペッパー(as)を想起させる中音域で、ステラ3部作の最終曲をスピリチュアルに展開した。
新作からの「ワウ」は纐纈が影響を受けたリー・コニッツ(as)の師匠であるクール派の開祖レニー・トリスターノ(p)の楽曲。バンドで最も関係が長く、纐纈が上京してから音楽的に全幅の信頼を寄せる佐藤浩一(p)は、トリスターノ派ではない自由な発想でソロを組み立てた。5年前に書いたオリジナル曲「ツイン・バード」ではそんな纐纈と佐藤の掛け合いを含め、後半にはアルトを主体にカルテット全体が熱気を帯びて、ファースト・セットを締め括った。
セカンド・セットの収穫は4日前に作曲したというアルバム未収録の初披露曲「ギンコー」。地方でのレコ発ツアーから一度東京に戻った時に生まれた曲で、「銀杏」の木のイメージで曲名をつけたという。テーマはトリスターノ的なメロディが織り込まれ、アルト・ソロでは銀杏の葉が風に吹かれて揺れている光景が浮かんだ。その楽想を意識したのか、安藤のドラムは木枯らしのようなマーチだった。意識した、と言えば、「オータム・ノクターン」のアルト・カデンツァで「リトル・ルーティー・トゥーティー」を引用したり、「セコイア」のピアノ・トリオ・パートでモンク的な展開になったのは、セロニアス・モンク生誕100年と無関係ではないと思ったのだが、どうだろう。
当夜の纐纈のプレイは迷いがなく、アルトを吹くことに自信を持っている印象。手慣れたフレーズを繋げたアドリブを避けて、挑戦心を持って演奏を組み立てている様子に、好感を抱いたのだった。