- all photos are used by permission of Ystad Sweden Jazz Festival
スウェーデン南端の都市イースタッドで開催される《Ystad Sweden Jazz Festival》は、2010年に創設。ヤン・ラングレン(p)が芸術監督を務め、広く欧米から著名ミュージシャンを招聘し、10年間で同国を代表するジャズ祭に成長しており、ラングレンを始めとするスタッフの優れたアイデアと運営力は、大いに称賛されていい。
昨年はコロナ禍のため、出演者の移動に配慮して自国と隣国デンマークのミュージシャンを中心にプログラムを編成し、当局の指導に従って観客数の上限を設定して開催された。4日間のステージのうち、10公演がインターネットで生配信されており、困難な状況におけるジャズ祭開催のあり方に関して、好例を示したのは特筆できる。
今年の同祭は8月4日から7日までの4日間で、エミール・パリジャン(ss)4tet、キャロリン・ヘンダーソン(vo)、セシリア・パーション(p)&セネット・ヨンソン(sax,cl)、アンデレス・ヨルミン(b)+レナ・ヴィッレマルク(vo)+中川果林(koto)、ヴィヴィアン・ブゼック(vo)、ステイシー・ケント(vo)らが出演。昨年よりも数は少ないが、2組のステージがインターネット配信されたので、その模様を以下にレポートする。いずれも同祭のメイン・ステージであるYstads Teaterからの中継だった。
3日目16:00開演のステージは、Scandinavian Jazz Orchestra meets Isabella Lundgren “Stories No One Has Heard”。SJOは2018年に第2作『Stora Steg』をリリースした5人編成のフレッドベリズ・オーケストラを母体とするビッグ・バンドで、リーダーのイーミル・フレッドベリが指揮と歌唱を務める。SJOのために書かれたオリジナル曲をレパートリーとし、この日がお披露目ライヴとなった。フレッドベリを除く17人編成は、日本でも人気のカリン・ハマー(tb)を含めて女性が11人を占めるのが特徴。250周年を迎えたスウェーデン王立音楽院が、同国産ジャズの重要性を示すプロジェクトでもある。
最初の3曲はイーミルの歌唱と指揮による演奏で、SJOの音楽性と立ち位置を表明。そのサウンドは60~70年代のサド・ジョーンズ=メル・ルイス楽団を踏まえたモダン・スタイルだ。4曲目に登場したイザベラ・ラングレン(1987~)は、2006~2010年にNYで学びながら音楽活動を始め、帰国後の2012年に『It Had To Be You』(SOL)でデビュー。2015年にペーター・アスプルンド(tp)、カール・バッゲ(p)らのカルテットと共演したスウェーデン大使館でのライヴを観た時、その高い歌唱力に驚かされたのが今も印象的だ。本プロジェクトに相応しい人選と言えるイザベラは、まずスロー・ナンバーで、堂々たる歌唱を披露。モーテン・ルングレンのミュート・トランペットとエバ・オスマン(tb)をフィーチャーし、後半のバンド合奏ではテンポ・アップしてエンディングへ。イーミルとイザベラが掛け合いを演じながら進行する5曲目は、ベイシー楽団に通じるスウィンギーなサウンドとの親和性が良好で楽しい。バンド曲に続く7曲目は、アルト&ピアノ・デュオで始まり、イザベラがピアノ・トリオのみをバックにしっとりと歌ったバラード。
イザベラがステージから下がった8曲目はイーミル歌唱のリズミカルなナンバーで、ギター~カール=マーティン・アンクヴィスト(ts)~カリン・ハマー(tb)が短いソロでリレー。インストゥルメンタルのラスト・ナンバーが終わると、ヤン・ラングレンが登場し、メンバーを紹介。30秒ほどのバンド・テーマと思われる曲でステージを締め括った。
イーミルとイザベラのすべての歌唱がスウェーデン語だったことを含めて、このビッグ・バンド・プロジェクトが、今後どのように発展するのか注視したい。
■Emil Fredberg(cond,vo) Isabella Lundgren(vo) Elin Andersson, Marten Lundgren, Jocke Wickstrom, Maria Shaik(tp) Karin Hammar, Ebba Asman, Agnes Darelid(tb) Ingrid Utne(btb) Julia Strzalek, Karolina Almgren, Karl-Martin Almqvist, Emma Josefsson, Fredrik Lindborg(sax) Jesse Emmoth(p) Charlotta Andersson(g) Gabriel Waite(b) Cornelia Nilsson(ds)
3日目21:00開演のステージは、Jan Lundgren and Georg Riedel “Lockrop”。スウェーデンを代表するピアニストとベーシストは親子ほどの年齢差があるが、デュオで出演。リーデルは1934年にチェコで生まれ、4歳でスウェーデンに移住。60年を超えるキャリアにあって、ヤン・ヨハンソン(p)がジャズと伝統音楽を融合した歴史的名作『Jazz På Svenska』(1962~63年録音)でデュオを演じたことで、同国ジャズ史にその名を刻むレジェンドだ。ラングレンとはデュオ作『Locklop』(2005年録音、Gemini)を発表した実績があり、当日の最終ステージを迎えた。セットリストは同作収録曲の他、ラングレンの自作曲およびリーデル(作曲)と児童書作家アストリッド・リンドグレーンの共作がアナウンスされた。
ヤン・ヨハンソンを敬愛するラングレンは『Swedish Standards』(97年)と『Landscapes』(2003年、以上Sittel)で、母国の伝統音楽を取り入れたアルバムを制作しており、リーデルとのデュオ・ライヴは王道継承の点でもラングレンにとっての重要案件だったと想像できる。本編は予告された『Locklop』からの「Looking Back」「Too Soon」等の全12曲。その中で本ステージの収穫となったのが④「Blues For Jan Johansson」で、文字通りのブルージーな曲調で進行しながら、ユニゾンでピタリと落着する。二人に敬愛の念が共通する偉人へのトリビュート曲として収穫を得た。
ジャズとスウェーデン古謡の親和性を優美に明らかにしたデュオは、同時にラングレンの音楽性であるテンダー・サッドネスも表現。それは時代がどう変化しようとも、音楽リスナーに対して変わらない訴求力があることを証明したとも言える。『Locklop』が録音されたオスロ、レインボー・スタジオのオーナー・エンジニアであるヤン・エリック・コングスハウクが2019年に他界したことと、リーデルが87歳(ロン・カーターの3歳年長)で現役であることを合わせて、今ラングレンができるプロジェクトを実現したことに拍手を送りたい。
■Jan Lundgren(p) Georg Riedel(b)
【Ystad Sweden Jazz Festival 2021 Photo Gallery】