スウェーデン南端の都市で開催される《イースタッド・スウェーデン・ジャズ・フェスティヴァル》は、同地に在住するピアニストのヤン・ラングレンが芸術監督を務める音楽祭。私は昨年、初めて取材のために訪れて、今年もラングレンから招待を受けた。昨年は初日の前日に現地入りして備えたが、今回は初日の夜の部に間に合えばいいかなと思い、8月1日の成田発航空券を予約した。以下は音楽の話ではなく、私の海外旅行史上、“移動”に関して過去に例がないほど多くの困難に見舞われた事例を振り返りたいと思う。
最終到着地がコペンハーゲンなので、それならSASの成田~コペンの直行便を取ればいい、という話なのだが、明かせない諸事情のためエクスペディアでFinnairエコノミークラスのチケットを購入。同社は何度か利用していて、好印象を抱いていたのだが、SASやJALに比べて座席の間隔が狭く、充電用USBジャックがない機種だった。
乗り換え地のヘルシンキでは2時間25分の待機だったので、SASのラウンジを利用するつもりで下調べもした。北欧旅行の際によく経由するコペンハーゲン空港で、SASのユーロボーナス・ポイントを使ってラウンジを利用する実績があったので、同じ方法を使うつもりでいた。ヘルシンキ空港に着いてからSASラウンジを見つけるまで、なかなかの時間がかかってしまう。ようやく見つけた受付でコペンと同じように申し込むと、予約をしていなければダメだと言われる。これはサービスとしてはいかがなものか。結局そこは諦め、サンドイッチと水を買って時間をつぶすことにした。
ヘルシンキからコペンまでは1時間40分。Finnairのゲートで待機するが、定刻の17:45を過ぎても何の動きもない。スタッフはいないし、アナウンスもなければボード情報の更新もなし。その状態が2時間近く続いて、ようやく搭乗が始まった。コペンでフェスのドライバーが私をホテルまで運んでくれる予定だったので、遅れる旨をスタッフに電話で伝えようとしたがつながらない。一抹の不安を抱きながら機内で過ごし、バゲッジクレイムで荷物をピックして出口へ。私の名前を書いたボードを持っているドライバーを探すが…いない。ここで再び電話するが、圏外の表示になってしまう。空港の外に出てみても圏外(後で冷静に考えると携帯電話を再起動すれば打開できた可能性があった)。ここで腹を括った。20:00のマンハッタン・トランスファー公演はもう無理として、ホテルのチェックインがNGになるのは避けなければならないので、自腹でタクシーを利用することを決意。実行に移す前に、再度ミーティング・エリアをゆっくりと歩いた。すると「Ystad Sweden Jazz Festival」のプレートを持った同Tシャツ姿の女性を発見。私の担当スタッフであるイッタさんと連絡を取りながら、待っていてくれたとのこと。こんな奇跡があるものなのか。不幸中の幸いと言うべきか、ついているのか。とにかく幸運だったのは確かだ。ホテルにチェックインし、疲労と冷や汗をシャワーで流して、本日の最終公演となる23:00のメリット・ヘミングソン(org,vo)の会場へ向かう。現地に到着する前の初日にいきなり、海外での一人旅の危機管理術がひとつ増えた案件となった。