スウェーデン南端の都市で開催される《イースタッド・スウェーデン・ジャズ・フェスティヴァル》は、同地に在住するピアニストのヤン・ラングレンが芸術監督を務める音楽祭。3日目の8月3日も、ホテル内レストランでの朝食から始まった。毎回の海外旅行と同じく、滞在中には全種類を制覇してやろうと食欲満々でチョィス。4人掛けのテーブルで食事をしていると、向かいに見知らぬ男性が着席して、私に話しかけてきた。本祭の初日にメディア関係者のためのパーティーが開かれたのだが、私はまだ往路の途中だったため不参加。おそらく初日と2日目のどこかの会場で私を関係者だと認識していたのだろう。スイスの雑誌「Jazz ‘n’ More」の編集長Ruedi Ankliだった。スイスと言えばということで、個人的に繋がっているIntakt RecordsやTCB、hatOLOGY等を話題に。海外で関係者に自分を認めてもらうためには、自分の力量を英会話で示すことが重要である。日本人評論家のメディア執筆仕事は、ほぼ日本語だからだ。
昼の部のフェスで最も注目したのは欧州混成トリオのフロネシスだった。結成は2005年で、2007年録音の『オーガニック・ウォーフェア』(Loop)でアルバム・デビュー。ベーシストのジャスパー・ホイビー(1977年、コペンハーゲン生まれ)をリーダーとして欧州での評価を次第に高めてゆき、定期購読している英「Jazzwise」の表紙を飾るなど、見逃せない存在となっていった。今年5月に日本初CD化となった『オーガニック~』のライナーノーツを執筆し、さらに8月に日本先行発売となる最新作『ウィ・アー・オール』でもライナーを書いたので、初めて観るステージに期待を寄せていた。
ドラマーのアントン・イーガー(1980年、オスロ生まれのスウェーデン人)が登場してすぐに叩き始めて、プログラムがスタート。ドラム・セットはスネア×2、バスドラ、ハイハット、小シンバル、シンバル×2でタムタム無しと、通常とは異なる独特な組み合わせ。
そのセットを尋常でないエネルギーでプレイするあたり、CDでは体感できないものだった。
「結成から12年が経ち、現在60曲あるレパートリーからアットランダムに選んだ」と、ホイビーがMCで語ったセット・リストは、歴史を重ねてきたからこそ表現可能なトリオの魅力を伝えてくれた。ピアニストのアイヴォ・ニーム(1981年、英ケント生まれ)はソロ・パートで実力を示したのに加えて、右手でメロディを奏でながら左手でベースとユニゾンを作ったり、ドラム・ソロが激しくなるのと並行してメロディ・ラインを作るなど、存在感をアピール。
ステージが進むにつれて感じたのは、ホイビーがアヴィシャイ・コーエン(b)・トリオから受けた影響を音楽性の土台として、フロネシス・サウンドを確立したのではないか、ということ。同じベース・リーダーとして7歳年長のコーエンを敬愛し、オリジナリティを獲得するに至ったのだと思う。終演後にメンバーと談笑し、前述の日本盤『オーガニック・ウォーフェア』をプレゼントした。
この日の最終ステージは23:00開演の劇場公演であるアヴィシャイ・コーエン(tp) with ボーヒュスレーン・ビッグ・バンド。2013年にイスラエルのショーケース・イヴェントを取材した時がコーエンとの初対面で、その後、東京で2度インタヴューをしている。今回は本祭の独自企画で、その成果は多大なものであった。終演後にコーエンの好演をねぎらう。
ボーヒュスレーン楽団のベーシストで、たびたび私的な酒席で交流を重ねてきた森泰人とは、終演後の一献を約束していたのだが、この深夜に楽団メンバーと共にすぐにマルメへバス移動しなければならなくなった、とのこと。10月に同楽団の来日が決定しているので、その時に酒宴を実現すると約束した。来日公演の詳細はこちらを参照してほしい。
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