ピアニスト・作曲家のカヤ・ドラクスラーが、《Paul Acket Award 2018》の受賞者に決まった。これはオランダの老舗フェスティヴァル《ノース・シー・ジャズ祭》で毎年授与されるもので、より広く知られるべき才能豊かな若手ミュージシャンを対象に選出。今年は7月13日から15日までの同祭の会期で、初日に授賞式が行われる。同賞は同祭の創設者に因んで名づけられた。2014~2017年の受賞者はアンブローズ・アキンムシーレ(tp)、ティグラン・ハマシャン(p)、セシル・マクロリン・サルヴァント(vo)、ダニー・マッキャスリン(ts)と、著名人が並ぶ。
ドラクスラーは1987年スロベニア生まれ(以下は本人のホームページ上の情報を元に執筆)。田舎の小さな街で普通の家庭に育って、18歳でオランダへ移住。ラテン語とギリシャ語の勉学を主目的に、音楽を学ぶことも意図した。数年後にはアムステルダムの即興音楽シーンの豊饒な世界に触れ、クラシック音楽の作曲法を習得する上でも有効となる。ピアノの練習、作曲、読書、交友、空港や列車で過ごすこと、人前での演奏に費やす時間を通じて、音楽家としての自己を研鑽。
現在のドラクスラーは自己のオクテットに注力しており、2名の女性歌手を擁した編成が特徴だ。そのデビュー作『Gledalec』(Clean Feed)を2017年にリリースした彼らは、《ノース・シー》での授賞式と同日にステージを務める予定だ。
Photo by Hiroki Sugita
以上はニュース的な原稿で、ここからは個人的なドラクスラーに関する原稿となる。私が彼女の存在を知ったのは2013年。ピアノ独奏作『The Lives Of Many Others』(Clean Feed)の衝撃的なアルバム・カヴァーを、信頼の置ける北欧のウェブサイトで発見し、すぐに購入。前衛的なジャズに理解がある欧州ならではの若手発掘なのだと思った。
来日する機会などない彼女のステージを初めて観るチャンスが訪れた。2016年5月の《メールス・フェスティヴァル》は2010年以来6年ぶりの取材。これは世界各国から18名の関係者が招かれたイヴェント「Music From Germany」の一コマで、ベルリン~マンハイムとクラシック&ワールドの取材を経た最終地だった。10年前から懇意にしていて、《東京JAZZ》に来日した時にはアテンドもしたメールスのディレクターであるライナー・ミヒャルケとの再会も嬉しく思った。
このメールスでドラクスラーはスザンナ・サントス・シルヴァ(tp,flh)とのデュオで出演。その時の模様を、私は以下のように記した。
「最大の収穫となったのは、カヤ・ドラクスラー&スザンナ・サントス・シルヴァ。スロベニア出身のドラクスラーとポルトガル生まれのシルヴァは、以前から共演関係にあり、昨年末にデュオのデビュー作『This Love』(Clean Feed)をリリースしている。譜面を見ずに自然な形でスタートした1曲目の「ヒム・トゥ・ジ・アンノウン」は、ひとつのモチーフを起点として、それぞれがヴァリエーションをつけながら、二重奏の発展に集中。ドラクスラーが持続的なミニマル・メロディ、マレット使用の内部演奏、鳩笛とピアノのユニゾンを繰り出せば、シルヴァはストレート・トーンばかりでなく、トランペットのベルをマイクに近づけたホワイト・ノイズや、濁音を織り交ぜたインプロヴィゼーションで高度なテクニックを印象付ける。最後は同一モチーフを展開させて、静かに美しく終わった。また、同作のタイトル曲ではシルヴァがトランペットとフリューゲルホーンを持ち替えて、サーキュラーブリージングによるフリー・スタイルを披露。どのような音色や技法であっても直立不動の姿勢を崩さないあたりは、クラシック音楽の土台があればこその実力を証明した」。
終演後に関係者エリアで二人と談笑。ステージの印象とは異なる、素顔に触れる思いがした。まだ日本でブレイクしていないが、この才人には今から注目していいと思う。