スウェーデン南端の都市で開催される《イースタッド・スウェーデン・ジャズ・フェスティヴァル》は、同地に在住するピアニストのヤン・ラングレンが芸術監督を務める音楽祭。昨年に続き2度目の取材となった今年の会期は8月1日から5日までの5日間で、昨年と同じくアリーナ、劇場、教会、カフェ等、フェスの会場から徒歩圏内にあるHotel Continental du Sudに投宿した。初日から気苦労の連続で参ったが、いつものように用意していたワインの部屋飲みで、長旅の疲れを取った。
一人旅の場合、ホテルで過ごす時間の中で楽しみの上位に来る朝食から、1日の活動が始まる。2日目の朝、1Fのレストランを1年ぶりに再訪。ここはメニューがなかなか充実していて、卵関係ではスクランブル、ゆで卵に加えて薄焼きもある。北欧の定番、ニシンの酢漬けは好物のクリーミー味を含めて3種類。ハム、チーズ、パンも数種類あって、ヨーグルトのトッピングも豊富だ。まだ朝だというのに、ついつい食が進む。日本での日常生活ではあり得ない行動も、海外旅行の醍醐味だと思う。地元の地方紙「Ystads Allehanda」の8月2日付朝刊の文化面トップには、初日に1500席のイースタッド・アリーナのステージを務めたセシル・マクローリン・サルヴァント(vo)の写真が掲載された。

食事でエネルギーをチャージしたところで、10:00の開店に合わせてワインショップに向かう。市内のメインストリート沿いにあるお店で、昨年もお世話になった。まだ開店間もないというのに、すでに店内は賑わっている。ワインは赤と白が国別に陳列されていて、赤を4本購入。深夜の最終公演後、部屋に戻って原稿をまとめる時間のために備えた。
この日、最初に観たスタージは11:00からのエレン・アンダーソン(vo)・カルテット。出演したPer Holsas Gardは250席の野外会場で、16世紀に由来する歴史的な場所だ。エレンは2016年にデビュー作『I’ll Be Seeing You』(Prophone)を発表し、《Swedish Jazz Awards》の新人賞とアルバム賞を受賞した注目株。同作のレコーディング・メンバーでもあるAnton Forsberg(g) Hannes Jonsson(b) Sebastian Brydniak(ds)が脇を固めた。
Ellen Andersson; Photo by Hiroki Sugita
「パーソナル・スタンダーズ」と題したステージはデビュー作がそうだったように、名曲を中心としたプログラムになった。まずギターとのデュオで、スキャットも入れたスローテンポの「レディ・ビー・グッド」で開幕。バンド全員が揃ったところで、「アイル・ビー・シーイング・ユー」は1番からミディアム・テンポのスキャットに繋げる。定石のバラードによる「ワンス・アポン・ア・サマータイム」、メランコリックな「オール・オブ・ユー」、ベースとのデュオで演じた「サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」と進行。特筆すべきはアルバム収録曲「オー・プリヴァーヴ」でバップ・ヴォーカリストとしての力量を披露していたアンダーソンが選曲した、同じチャーリー・パーカー作曲のアルバム未収録曲「ビリーズ・バウンス」。無伴奏の歌唱で始まり、バンドが加わってスキャットへと展開したのだが、これがうわべだけのスキャットではなく、細かいニュアンスにも神経を配りながらの歌唱で、確かな技巧を感じさせた。
7曲目の「ユーヴ・チェンジド」になると、予告されていなかったフレドリク・クロンクヴィスト(as)が登場。これは個人的に嬉しいサプライズとなった。続く「オー・プリヴァーヴ」ではアルト奏者としてまさにハマリ役を演じ、当初の予定になかった追加ミュージシャンによってアルバムの世界観を観客に披露した。この時点でクロンクヴィストの参加理由とアンダーソンとの関係が不明だったため、フェスのスタッフにヒアリング。すると後日クロンクヴィスト本人に確認してくれた情報が寄せられた。それによればアンダーソンとステージで共演したのは初めてだったが、バンドの4人全員をイースタッドに近いSkurup Collegeのジャズ科で指導した関係があったとのこと。フェスは午前の野外ステージから、マニアが喜ぶ演出をしてくれた、というわけである。
Fredrik Kronkvist; Photo by Hiroki Sugita
この日はグンナール・エリクソン(cond)&リルケ・サンサンブル、ジョン・ヴェンキア(p)3、エレン・アンドレア・ワン(b,vo)、ユン・サン・ナ(vo)、オメル・クライン(p)、モンティ・アレキサンダー(p)のステージを取材。トラブルもなく1日を終えた。