私にとって2017年はデンマークとの関係を深めた年になった。2月に《Vinter Jazz》の取材のため、コペンハーゲンに4日間滞在。それまで他の北欧都市へ行くための経由地だった場所で、ジャズ・シーンの現況を体感することができた。5月には《デンマーク・ジャズ祭》とも呼べる東京で開催の《オポジット》を連日取材。そのレポートを含む拙稿が掲載された「Jazz Perspective」デンマーク特集号が8月に発売。そしてジャズ・デンマークから《Danish Music Awards Jazz 2017》の選考委員に任命されて作業にあたり、12月4日のコペンハーゲンでの授賞式に出席するため渡欧した、という流れである。私が選考委員に指名されたのは、前記のような直近の出来事を踏まえてのことだと思われるが、これまで継続的に日本にヨーロッパのジャズを紹介する仕事をしてきたことが評価されたのだとしたら、これ以上の喜びはない。
選考作業は3段階で徐々に絞り込む方法で、結果は授賞式に公表されるスタイル。他の選考委員の名簿を含めて、事前には知らされていなかった。不正の余地がなく、公平性を期す意図があったのだろう。会場のブレーメン・シアターには各賞の候補者と関係者、一般客が着席。式はジャズ・ヴォーカリストのビアギッテ・スジンと人気タレントのマスター・ファットマンが、笑いを交えながら進行。左手の大型モニターに候補者のPVが流れて、司会者が受賞者を読み上げるという、グラミー賞と同じスタイルだった。これはTV中継が入ったこととも関係すると思う。受賞者とは別に、6組のアーティストによるライヴもプログラムに組み込まれて、本年度のデニッシュ・ジャズの総決算がこのイヴェントであることを、強く印象付けられた。
ステージはまずピーター・ジェンセン(tb)をフィーチャーしたキャサリン・ウィンドフェルド(p)率いるビッグ・バンドの演奏でスタート。今年発売の『Latency』(Stunt)が現地で話題を呼び、DMA Jazzの2部門でノミネートされていて、評価の高さにも納得の演奏だった。トリオで登場したマーグレテ・ビョルクランド(pedal steel-g)は、カントリー、ロック畑の若手だが、今回の出演はジャズ作を控えてのことかもしれない。観客から一際大きい声援を受けたのが女性ベーシスト、イダ・ヴィズのトリオのアルヴィン・クイーン(ds)だった。彼らのステージのテーマがオスカー・ピーターソン・トリビュートで、クイーンにピーターソンとの共演歴があることも理由だったのだろう。ピーターソン作曲の「ナイチンゲール」と、ピーターソン編曲の「ワルツ・フォー・デビイ」を演奏。5組目はイエペ・シーベア(p)とユリエ・ケア(as)のデュオによるインプロヴィゼーション。前述の《オポジット》にも出演して高評価を得た二人は、即興ジャンルで各楽器の若手代表的実力者であることを実証した。最後のステージをレギュラー・トリオのマリリン・マズール(per)を擁するカルテットで務めた平林牧子(p)は、同地に定着しているキャリアが伝わって来て、日本人として誇らしい気分になった。
受賞者では《最優秀作曲賞》と《最優秀ヴォーカル賞》の2部門に輝いたキラ・スコーフ&マリア・ファウストが、本年度のグランプリ・アーティストである言っていいだろう。授賞式の模様は国営ジャズ・ラジオ局「DR P8」で生中継され、後日テレビでも放映予定。これほどの立派なジャズ賞が運営されているのは、主催者であるジャズ・デンマークの力と、それを可能にする環境が両立しているからにほかならない。デンマーク・ジャズ界の豊かさと底力を実感したイヴェントであった。