1992年にドイツで設立されたACTは四半世紀の歴史を積み重ねた実績により、ヨーロッパ屈指のジャズ・レーベルとの評価を確立している。これはオーナー&プロデューサー、シギ・ロッホがレコード・ビジネスでの豊富な経験を踏まえた上で自社を設立したことと、音楽に対する視野の広さと慧眼があればこそ、である。私は雑誌やウェブサイトのレビューや日本のディストリビューターからの依頼仕事で、継続的にACTと関わってきた。拙著「ヨーロッパのJAZZレーベル」(2002年、河出書房新社)では6ページを費やして、当時創立10年のカタログとその魅力を紹介。
2000年以降の日本で拡販を図ってきたトライエム、ビデオアーツミュージック、ナクソスジャパン、キングインターナショナルといったディストリビューターの存在があるからこそ、今のACTがあることを知っていただければ幸いだ。
一般的にビジネスとクリエイティヴィティの両立が難しいことは論をまたない。ACTはシギ・ロッホが好きな音楽を制作する、とのポリシーに基づいていると考えれば、シリアスからエンタテインメント、さらにジャズにとどまらずワールドまでの幅広さでカタログを築いてきたことが理解できる。同じドイツでもECMほどのストイックさを追求せず、それでいて欧州での受賞実績は数多く、ロッホがプロデューサーとして高い評価を得ているのは、前述の難しい両立を可能にしていることの証しだと言えよう。しかし日本ではそれが等身大で理解されていない印象があり、個人的にはもどかしいとも感じている。
私はこれまでに3度、シギ・ロッホに会ったことがある。最初は2014年9月に《ジャズ・フィンランド・フェスティヴァル》の会期と合わせてヘルシンキで開催された「ヨーロピアン・ジャズ・カンファレンス」でのこと。毎年各国持ち回りで行われる「ヨーロッパ・ジャズ・ネットワーク」の総会で、この年に初めて欧州以外の北米、アジア、オセアニアから関係者が招かれ、私は日本代表で参加。ロッホはフィンランドの関係者からインタヴューを受ける形で1時間のトーク・イヴェントに登場したのだが、実に弁舌滑らかで、独演会の様相を呈したのだった。そのエネルギッシュな姿を目の当たりにして、音楽に対する情熱と身体的なバイタリティが、レーベル運営の原動力なのだと納得した。
2度目は2015年10月に来日した折、「ジャズライフ」のためのインタヴューだった。ビジネス・キャリアとACTについてが質問の柱で、予定の1時間が過ぎても終わらなかったため、そのまま取材を延長。話し始めると止まらなくなるのは前年のヘルシンキの時と同様で、経営者、レコード・プロデューサーとして偉大な足跡を残してきたことを改めて実感した。3度目は今年8月の《イースタッド・スウェーデン・ジャズ祭》でのこと。ACTレコーディング・アーティストであるイーロ・ランタラのソロ・コンサートの中で、ランタラが客席のロッホを呼び上げる場面があった。そこで終演後に談笑し、記念写真を撮影。その日はちょうどロッホの77歳の誕生日でもあったので、思いがけず喜ばしい再会となったのである。
20周年に『The Jubilee Album: 20 Magic Years』を制作したACTは、先頃『Twenty Five Magic Years: The Jubilee Album』をリリース。節目の年を記念作で祝った。一見、既発音源のコンピレーションのように思えるがそうではなく、全13曲のうち9曲もの未発表音源を収録していて、このサービス精神は大歓迎だ。お馴染みのCDサイズのカタログが付属しており、現在の主要アーティストのバイオグラフィー、および記念年にちなんで25名と25枚の代表作が紹介されている。