写真家、レコーディング・エンジニアとして約30年間にわたり活動を続けるジミー・カッツは昨年、自身が運営する新会社Giant Step Artsを設立。発足記念ライヴとして1月にニューヨーク“ジャズ・ギャラリー”で2日間、ジョナサン・ブレイク(ds)・トリオの公演を行った。同店での公演はシリーズ化され、ラドレッシュ・マハンサッパ(as)、ジェイソン・パーマー(tp)が出演している。
非営利団体であるGiant Step Artsの設立理由は、創造性の高いアーティストが、レコード会社からの商業的なプレッシャーから解放されて、冒険的で新しい音楽を制作するために、芸術性と経済面を保証した場所を提供することにある、という。レーベル・ポリシーは以下の通り。
- 初演ライヴを提供し、アーティストを厚く保証する
- 演奏を録音し、独自にリリースする
- 直接販売するために、800枚のCDとデジタル・ダウンロードをアーティストに供給する
- プロモーション用の写真とビデオをアーティストに提供する
- 作品のためのPR活動をサポートする
「この国では芸術が支えられていないと、非常に強く感じています。各ミュージシャンの評価を上げたいと考えていて、最高の芸術形態であると私が信じているジャズの中で、最高レヴェルの創造性をサポートすることに興味があるのです。Giant Step Arts は無条件でミュージシャンに夢をかなえる機会を与えます」(ジミー・カッツ)。
昨年収録されたライヴ音源から、今年3月にレーベル第1弾として前出のジェイソン・パーマーのリーダー作『Rhyme And Reason』がリリースされた。米国人トランペット奏者のパーマー(1979~)は2008年の初リーダー作以降、SteepleChaseやNewvelleでコンスタントに制作を重ねている、この世代の実力派の一人。マーク・ターナー(ts)、マット・ブリューワー(b)、ケンドリック・スコット(ds)とのカルテットで、パーマーのオリジナル全8曲を収めた2枚組だ。
4月発売の第2弾はジョナサン・ブレイク『Trion』で、メンバーはクリス・ポッター(ts)、リンダ・メイ・ハン・オー(b)とのコードレス・トリオ。オリジナルが中心の全13曲収録の2枚組にあって、チャーリー・パーカー作曲の「リラクシン・アット・カマリロ」のカヴァーが注目される。ポッターはブレイクのリーダー第2作『Gone, But Not Forgotten』(2014年、Criss Cross)に参加しており、昨年の《モントリオール国際ジャズ祭》ではドクター・ロニー・スミス(org)のカルテットで共演した間柄だ。
そして5月17日には第3弾となるエリック・アレキサンダー(ts)の『Leap Of Faith』が登場する。ダグ・ワイス(b)、ジョナサン・ブレイク(ds)とのトリオによる、2018年5、8月NY“ジャズ・ギャラリー”でのライヴ録音。日本での人気も高いアレキサンダーは本邦レーベルの制作によるアルバムも数多いが、ピアノレス・トリオの編成は珍しく、全8曲がオリジナルであることと合わせて、ファンには見逃せない内容となっている。
Giant Step Artsがジャズ・レーベルにおける、過去に例のないビジネス・モデルへと成長するのか。今後リリースされるラインアップへの興味は尽きない。
- レーベル・ウェブサイト:https://www.giantsteparts.org/