米テキサス州ダラスを拠点に活動する女性ヴォーカリスト、ローラ・エインズワース。肘丈の手袋とビーズのロングドレスを身につけ、3オクターブの声域から生まれる歌唱は、1940~50年代のナイトクラブの歌手を思わせる優美なレトロ・スタイルと、現代的に洗練されたセンスを融合させたもの。ローラはそれを“ニュー・ヴィンテージ”と呼ぶ。
父親の故ビリー・エインズワースはサックス、クラリネット奏者で歌手、編曲家でもあり、17歳の若さでトミー・ドーシー楽団のメンバーになった才人。そんな父親がエラ・フィッツジェラルド、トニー・ベネット、メル・トーメのような著名ヴォーカリストを助演するステージを観ながら少女時代を過ごし、優れたジャズ、ビッグ・バンド、さらにはキーリー・スミス、ドリス・デイ、ジュリー・ロンドン、マーガレット・ホワイティング、ローズマリー・クルーニー(vo)を好んで聴いた。また音楽的な素養がある喜劇女優からユーモア・センスも吸収して、後に女優・歌手になるための素養を育んでいる。

学生時代には合唱部とミュージカル部で歌い、アメリカン・スタンダード・ナンバーを愛したローラは、社会に出るとCMプロダクションでジングルの制作に携わり、夜はミュージカル劇場で勤務。ミュージカル『王様と私』に主演し、自作の一人芝居にも出演する。その後、父親の演奏によって慣れ親しんでいた音楽を守るため、ジャズ・ヴォーカリストに転身することを決意した。
2011年に『Keep It To Yourself』で歌手デビューしたローラは、『Necessary Evil』(2013)、『New Vintage』(2017)と、これまでに3枚のオリジナル・アルバムを発表している。それらに共通するのは有名曲に偏らず、隠れた名曲にもスポットを当てた選曲センスだ。「私が好きなのは、50年代にフランク・シナトラとエラ・フィッツジェラルドがやっていたみたいに、あまり知られていない昔の曲を見つけて、新しいオーディエンスに向けて蘇らせること」と語るように、明確なポリシーを持って自身の歌手活動に取り組んでいるのがローラなのである。受賞歴は2018年、AMGヘリテージ・アワードで〈最優秀女性ヴォーカリスト賞〉〈最優秀アルバム賞〉〈最優秀ヴィデオ賞〉の、開設以来初の三冠受賞など。

ローラは上記3タイトルのCDから10曲を選んだ編集LP『Top Shelf』をリリース。本国では2017年に世に出ていた作品が今回、日本でのデビュー作として流通が始まった。収録曲はヴァースから始まり、通例とは異なるスロー・テンポで歌う「ラヴ・フォー・セール」、ラテン・アレンジが楽しい「アン・オケイジョナル・マン」、ビッグ・バンド・サウンドをバックに往年の楽団専属歌手を想起させる「ネセサリー・イヴィル」、テナー・カルテットが伴奏するブルージーな「ジャスト・ギヴ・ミー・ア・マン」、クラリネットをフィーチャーしたフランク・レッサー作曲の「ザッツ・ハウ・アイ・ゴット・マイ・スタート」等、年季の入ったジャズ・ヴォーカル・ファンでも新たな発見がある内容だ。180グラム重量盤、オーディオファイル・マスタリング、MP3ダウンロード・カードが付属。

【作品情報】
『Top Shelf』Laura Ainsworth
■A①Love For Sale ②An Occasional Man ③Necessary Evil ④Just Give Me A Man ⑤Hooray For Love / B①That’s How I Got My Start ②Out Of This World ③That’s The Kind Of Guy I Dream Of ④Wasting My Love On You ⑤Skylark
■Laura Ainsworth(vo) Brian Piper(key) John Adams(b) Mike Drake(ds) Steve Barnes(per) Chris McGuire(ts,cl) Pete Brewer(fl) Rodney Booth(tp) Chris Derose-Chiffolo(g) Milo Deering(vln) Dana Dudborough(vib)
■Eclectus ER1004
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