映画『オズの魔法使い』(1939年)、『スタア誕生』(54年)や、グラミー賞受賞作『ジュディ・アット・カーネギー・ホール』(61年)を代表作とする女優・歌手ジュディ・ガーランドの晩年を描いた映画『ジュディ 虹の彼方に』が、3月6日からロードショー劇場公開中だ。1922年生まれの米国人ジュディは、69年に47歳で逝去。公私共に波乱万丈の生涯を送った。芸能・音楽史に大きな足跡を刻んだジュディが、他界する約半年前にロンドンのナイトクラブで行った5週間公演での日々をモチーフにした作品である。
監督は『トゥルー・ストーリー』(2015年)の英国人ルパート・グールド。主役のジュディを演じるレネー・ゼルウィガーは、アカデミー賞主演および助演女優賞に輝く名優で、すべての歌唱シーンを吹き替えではなく自身がこなしている。
レネーがアルバム・カヴァーを飾るサウンドトラックもリリースされた。収録曲は「バイ・マイセルフ」「ジング・ウェント・ザ・ストリングス」「トーク・オブ・ザ・タウン」「カム・レイン・オア・カム・シャイン」等のスタンダードが中心で、「ゲット・ハッピー」にはサム・スミス(vo)が、「ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス」にはルーファス・ウェインライト(vo)が参加。ラストの12曲目は「虹の彼方に」で締め括っている。
●サウンドトラック試聴
https://open.spotify.com/album/734JzTSUKZBI5mejMF5Myc
レネーにとって映画『ジュディ 虹の彼方に』に関わるきっかけをもたらしたのは、2001年の映画『ブリジット・ジョーンズの日記』でいっしょに仕事をしたプロデューサー、デヴィッド・リヴィングストンだった。キャスティングに興味を抱いたものの、自分がジュディを演じる適任者であるかどうかわからなかったが、「決めなくていい。ロンドンに来て、少しやってみないか」との言葉に後押しされて、プロジェクトは動き始める。「まずジュディに関する本やインタヴューを読んで、それから出演作品を観て、音楽を聴いたわ」。
レネーが意識したのは容姿と声がジュディのように演じられるか、ということで、特に彼女の声がアイコニックであるためだった。まず音楽面を確認し、写真家と共にメイクアップの方向性を探求。「トゥナイト・ショー」や「デイック・カヴェット・ショー」の出演番組を観て、キャリアの軌跡を体感した。この映画に携わるにつれて、仕事と私生活の両面で様々なトラブルを抱えていたにもかかわらず、素晴らしい作品を残したジュディの生き方にレネーは感銘を受けたという。
音楽映画の場合、歌唱や演奏を別のプロが吹き替えることがある。グールド監督はレネーに自分自身で歌うことを勧めた。レネーにゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞したミュージカル映画『シカゴ』(2002年)の実績があったからだが、観客を前にした“ライヴ”の演技はレネーに対してハードルを高くしたようだ。それをクリアしたのはレネーの技量を信じた監督の信念だったと言える。
最初に収録した楽曲は「バイ・マイセルフ」で、レネーは緊張していたが、劇場での撮影が5、6日目まで進んだ最終段階で歌った「虹の彼方に」に至ってほとんど緊張せずに役柄を演じた。その間、共に過ごしたエキストラの出演者たちと親しくなったことが、次第に好作用したようだ。監督の助言を得て、ライヴ・パフォーマンスの前にピアノの鍵盤を押して、身体的な感覚を得たのも同様である。
「ジュディ・ガーランドを演じるために、多くの方法で成長しなければなりませんでした。自分の仮定を再考する必要があり、何度かひどい目に遭ったけれど、1週間以内にそれらの出来事にすべて価値があることがわかったのです」(レネー)。
2月9日にハリウッドで発表された第92回アカデミー賞で、レネー・ゼルウィガーは見事、最優秀主演女優賞に輝いた。