5月2日のテレビやインターネットのニュースが第一報となった。米国の教育TV番組「セサミストリート」が放送50周年を迎えたことを記念して、ニューヨーク、ブロードウェイ63番の交差点を“Sesame Street”と命名。5月1日に除幕式が開催され、ビル・デブラシオNY市長とビッグバード、クッキーモンスター、オスカーらマペットたちが列席した。このニュースを見た時、私が10代だった1970年代にNHKで放送されたこの番組を楽しみにしていて、テキストも買って英語力の向上にも役立ったことを思い出したのである。
☞ NYC Mayor’s Office via Storyful
「セサミストリート」はしばしばポップス界の人気アーティストをゲストに迎えた番組作りでも知られている。またジャズ・ミュージシャンが出演した回では、ライヴとは違う一面が垣間見られることもあって、ファンには見逃せない。
2002年発表のデビュー作『Come Away With Me』が大ヒットし、ジャズ・ヴォーカル界に革命を起こしたノラ・ジョーンズ(vo,p)は、2004年4月のシーズン35に出演。“Y”をテーマにしたマペット=エルモとの共演で、前年のグラミー賞で(Record of the Year)(Song of the Year)(Best Female Pop Vocal Performance)を受賞した楽曲「Don’t Know Why」の歌詞を教育目的のために変えた替え歌を、自ら歌った。マペットとの楽しいやり取りを通じて言葉を教えるノラに、多くの視聴者が親近感を覚えたに違いない。
ジャズの伝統継承と啓蒙に情熱を注ぐウィントン・マルサリス(tp)が、この番組と親和性があることには納得できる。85年の回はマペット=フーツ扮するサックス奏者がアドリブのお題を出して、それにウィントンが応える内容。子供にジャズの魅力を伝える点でとても効果的であり、新伝承派の中心人物として活躍していた80年代のキャリア初期に、早くも教育活動に関わっていたことを今に伝える。
98年にウィントンはマペットたちを前に、マスター・クラスならぬ“Monster Music Class”を開催。マペット・バンドのメンバーに楽器の使い方を指南する。「文字の“A”ではなく、音調の“A”だよ」と言って、まずトランペットでお手本を示し、ヴァイオリン、チューバ、ピアノが音を出す。最後に合奏で1曲を仕上げる、といった趣向だ。
音楽的に興味深いのはハービー・ハンコックが出演した83年の回。ハービーのスタジオを子供たちと先生が訪れると、子供が発した自分の名前の音声をシンセサイザーに取り込み、それをモチーフとして音楽的な話題が展開する。1台の鍵盤から様々な音に加工された音声や楽器音が出てきて、子供たちは大喜び。結果的にフェアライトCMIのデモンストレーションのような内容になったわけだが、ジャズのトップ・ミュージシャンが使用する最新テクノロジーを子供たちが学ぶシチュエーションは、ジャズへの興味喚起の点で大きな効果があったと思われる。ハービーは最後に「セサミストリートのテーマ」を同鍵盤で演奏。83年作『フューチャー・ショック』を想起させるアレンジが時代を感じさせて、興味深い。
探せばまだまだジャズ関係の動画が視聴可能。意外な場所にあるジャズ・アーカイヴにアクセスすれば、新たな発見があるかもしれない。