1973年フィラデルフィア生まれのドラマー、アリ・ホーニグが私の視界に入って来たのは、90年代からのジャン=ミシェル・ピルク(p)・トリオだった。その後サイドマンとしての来日ステージを観て、単に定型ビートをキープするタイプではないと印象付けられた。2016年1月のカルテットを率いた丸の内コットンクラブ公演では、変則的なプレイを得意とする自身の個性を存分に発揮。好みが分かれるだろうが、私は面白いと思った。マレット使用の音階奏法による「上を向いて歩こう」は、日本のファンのためのサービス精神として、大いに喜ばれたのだった。
その直後にリリースされた『The Pauper and the Magician』(AH HA Records)は、暗闇を持つマジシャンがその魔術的な本の世界に貧困者を誘って起こる出来事、というストーリー仕立ての内容。オリジナル曲による本編が終わって、最終曲に置かれたのが名曲「ユー・アー・マイ・サンシャイン」で、本の世界から抜け出して平和が訪れるコンセプトが重なった。そしてホーニグの演奏はマレット使用の音階奏法。つまりこれがホーニグの“十八番”なのだと合点がいったのである。
今回の来日はホーニグ・トリオによる3日間連続公演。その2日目にあたる6月20日のファーストセットを、コットンクラブで観た。前回加わっていたテナーサックスが不在のピアノ+ベース+ドラムなので、当然のことながらサウンドの様相は異なる。楽器のセッティングが通常とはやや違って、右側のドラムが左側のピアニストに向き合う位置関係。ステージに向かって右側のカウンター席からだと、ホーニグの後ろ姿を見ながらの鑑賞となった。一つの楽曲の中で変幻自在にリズムが変化する。そこにはピアノとのユニゾンやキメも含まれていて、事前に作・編曲されたものであることは明らか。前回も帯同したエデン・ラディン(p)とのアイコンタクトを絶やさず、そのためにもこの楽器配置は必要なのだった。
変則リズムは他のドラマーも近年取り組んでいて、リスナーの支持を得ている、前述した通り好みの分岐点だが、同じ変則ドラマーでもホーニグは決してメカニカルではない。演奏する後ろ姿からは、むしろ人間臭さが伝わってきて、好感を抱いたほど。ステージ進行の途中で脱ぐことがわかっていてもジャケット着用で登場するマナーや、誠実なMCも好ましく思った。
自作曲を中心に組んだ本編が終わり、アンコールに応えて再登場すると、スネア、タム、フロアータムをチューニングし直して始まったのが、セロニアス・モンク曲「モンクス・ドリーム」。そしてまたしてもマレット使用の音階奏法だ。これまで『スリーダム』で「シンク・オブ・ワン」、『ラインズ・オブ・オプレッション』で「リズマニング」、『バートズ・プレイグラウンド』で「ラウンド・ミッドナイト」、『タイム・トラヴェルズ』で「ウェル・ユー・ニードント」を選曲してきたホーニグにとって、モンク・ナンバーを特異奏法のレパートリーに入れるのは当然のことだったに違いない。
ホーニグはクリス・ポッターとの共演でもこの曲を演奏している(2015年12月14日@NY“スモールズ”)