ピアニストのハクエイ・キムはこれまでたびたびインタヴューで顔を合わせたり、宴で談笑するなどの関係を続けてきた。ハクエイがリーダー名義の2011年発表作『トライソニーク』で始動したトリオは、アルバム名をユニット名として活動を継続。アーティスト名の英語表記では“Trisonique”とした2013年作『ボーダレス・アワー』では大胆なエレクトリック・サウンドで新境地を開いて、ファンを驚かせた。グループの運営スタイルが全員が対等な関係にある合議制へとシフトしたことも、結成時からの変化が音楽性に止まらないことを示す。その後、2015年に韓国のユニット新韓楽とのコラボ作『HANA』を発表するが、ハクエイは特別企画作と位置付けており、気が付けば『ボーダレス~』から5年も経った状況である。今年1月にソロ・ピアノ作『レゾナンス』を発表したハクエイばかりでなく、メンバーの杉本智和(b)、大槻“KALTA”英宣(ds)も同様に多忙なミュージシャンということもあって、頻繁にライヴを行えないのもこのトリオならではの事情だ。私にとっても久々となるステージを、連休中の5月5日に新宿ピットインで観たので、そのレポートを兼ねてトライソニークを再考したい。
ファースト・セットのオープニングはアルバム未収録の「コールド・エンジン」。ハクエイがMoogシンセサイザー、杉本がエレクトリックベースでアブストラクトな導入部を作ってからテーマに移ったり。あるいはベース・ソロの間に他の2人がサポート役に回るのではなく、積極的に自身を発信するのは、初期のアコースティック時代とは異なるサウンド・イメージだろう。エンディングに向かってドラマティックかつスリリングに展開するあたりも、アコースティック&エレクトリックの両立の好作用と言っていい。
ファーストのハイライトとなったのが、『ボーダレス~』収録の「メソポタミア」。ここでもハクエイがシンセとピアノを自由に行き来し、ピアノ・リードのパートになると杉本がハービー・ハンコック『洪水』(1975年)のポール・ジャクソンを想起させるベースラインで、バンド・サウンドに刺激を与える場面を現出。それがきっかけとなってハクエイがハービー、大槻がマイク・クラーク~ハービー・メイソンに思えてきて、俄然興奮が高まった。
ハクエイのオリジナル曲をレパートリーの中心としてきたトライソニークが、ハクエイに請われた2人が楽曲提供をしたことも、音楽性と運営の変化。杉本は隠れキリシタンの暗号文をヒントに作曲した「ロザリオ」で、大槻は自身のリーダー・バンドのレパートリーである「ノマド」で貢献。セカンド・セットの最終曲「ジャッキー・オン・ザ・ラン」は、「メソポタミア」と共通する楽想で、トリオの一体感を強烈にアピールした。ハクエイの取材を通じて、結成から現在までの歴史が決して平坦ではなかったことを知っている。それを踏まえれば、今のトライソニークは新作を制作してもおかしくないくらいの、かなり良い状態にあると思う。ハクエイはMCで10周年を見据えたアイデアを考えていると発表。新作と合わせて期待しながら、引き続きウォッチしていきたい。
Photo by Shiho Yabe