ボサノヴァの始祖であるブラジルの伝説的歌手・ギタリスト、ジョアン・ジルベルトの行方を追ったドキュメンタリー映画『ジョアン・ジルベルトを探して』が、8月24日より全国で順次公開されることが決定した。「イパネマの娘」、「想いあふれて」など、ボサノヴァ・ファンでなくとも誰もが耳にしたことのある名曲の数々を生み出し、類稀なるギター演奏と甘美な歌声によって世界中にその名を知らしめたジルベルト。2018年11月にドイツで初公開された本作が、いよいよ日本に上陸する。
フランス生まれでブラジル音楽を敬愛するジョルジュ・ガショ監督が手掛けたドキュメンタリーである本作は、ドイツ人ジャーナリストのマーク・フィッシャーがジョアン・ジルベルトに会うため、リオ・デ・ジャネイロに出向いた顛末を描いた著作『Ho-ba-la-lá: À Procura de João Gilberto』をガショ監督が音読するシーンから始まる。その懸命な追跡にも関わらず、フィッシャーはジルベルトに会えないまま、本が出版される直前に他界。ガショ監督は、フィッシャーの旅に強く共感し、彼の夢を実現すべくジルベルトゆかりの人々や土地を訪れて、ブラジル中を巡り歩く。歌手で元ジルベルト夫人のミウシャ、作曲家・ミュージシャンのマルコス・ヴァーリ、ジルベルトの旧友でピアニストのジョアン・ドナートら有名ミュージシャンのインタヴューや、ジルベルトのライヴ映像などで作品は進行。2008年のコンサートを最後に、公の場に姿を現さず、謎に包まれたままの巨匠に、果たしてガシュ監督は会うことができるのだろうか。ジルベルトは本作の日本公開を1ヵ月後に控えた7月6日に、リオ・デ・ジャネイロで逝去している。
☞ 予告編
【ジョアン・ジルベルト】
本名ジョアン・ジルベルト・プラド・ペレイラ・ヂ・オリベイラは1931年6月10日、ブラジル北東部バイーア州ジュアゼイロ生まれ。46年にギターを始めて、バンド活動。19歳の時にリオ・デ・ジャネイロでヴォーカル・グループ、ガロットス・ダ・ルアに短期間参加。
52年に初のソロ・レコードを録音。50年代半ばにサンバのリズムをギターだけで表現する独特の奏法“バチーダ”を開発する。58年エリゼッチ・カルドーゾのアルバムにギタリストとして参加。前年に出会ったアントニオ・カルロス・ジョビンとヴィニシウス・ヂ・モライスが書いた「想いあふれて」を録音し、最初のボサノバ・ソングとなった。59年に同名の初リーダー作を発表。
ブラジルでブームが起こったボサノヴァは現地を訪れたアメリカ人ミュージシャンにも知られるようになり、63年にスタン・ゲッツとの共演作『ゲッツ/ジルベルト』を録音。同作は64年度の米グラミー賞〈最優秀アルバム〉に輝き、当時の夫人だったアストラッド・ジルベルトが英語で歌った収録曲「イパネマの娘」が大ヒットした。
その後ゲッツとは64年のNYカーネギー・ホール・ライヴ『ゲッツ/ジルベルト#2』(以上Verve)、75年の再会作『ゲッツ=ジルベルト・アゲイン』(CBS)を制作。69年から2年間メキシコシティに居住。70年代は『三月の月』(Polydor)、トミー・リピューマのプロデュースによる『イマージュの部屋』といった秀作を発表している。81年カエターノ・ベローゾ、ジルベルト・ジル、マリア・ベターニアとの共同名義作『Brasil (海の奇蹟)』(以上WEA)を発表。カエターノのプロデュースによる2000年のギター弾き語り作『ジョアン声とギター』は、グラミー賞〈最優秀ワールド・ミュージック・アルバム〉を受賞。
2003年、初の来日公演は『ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー』(以上Verve)でアルバム化。2004年と2006年にも日本公演が行われた。2016年にはスタン・ゲッツと共演したサンフランシスコ“キーストン・コーナー”での未発表ライヴ作『ゲッツ/ジルベルト‘76』(Resonance)が登場して話題を呼んだ。2019年7月6日にリオ・デ・ジャネイロの自宅で逝去した。享年88。歌手のベベウ・ジルベルトは65年に結婚した歌手ミウシャとの間に生まれた娘。