近年は小林洋子(p)とのデュオ・プロジェクトThe Third Tribeなど、独自の活動を続けるドラマーの池長一美が、ピアニスト浅川太平とのデュオ・プロジェクトNordNoteのお披露目作『NordNote』を完成させた。
NordNoteはデンマークのミュージシャンとの所縁が深い池長が、北海道出身の浅川とトリオで2013年に初共演した時に、「まるで宇宙から届く聖なる響きを得たかのようだった」と感じたのが発端。2014年に池長の音楽コンセプトを形にするために結成したカルテット“the poetry of impressionism”のメンバーとして浅川と活動を共にする中で、2016年に池長&浅川のデュオが始動。ユニット・コンセプトに関して、池長は次のように語っている。
「NordNoteとは、池長、浅川、お互いが北欧、北海道など、北との関係性を持つ中で、それらの牧歌的精神や思想を内包する音楽を共有して行こうという共通認識の表明です。
ネットの普及で、急速な利便性や生産性の向上により、物事にじっくり向き合う姿勢や、鑑賞する余裕であったり、ひいては人に対しての尊厳が軽視されていると感じています。
刺激だけをインスタントかつスピーディーに求めるものが蔓延する中で、我々演奏者自身が精神性を重視した、真実としての音世界を提示することで、精神性が軽視されがちな現代へのアンチテーゼとして主張していこうというものであります」。
アルバムは全10曲を収録しており、池長の自作が1曲で、浅川の自作が6曲。ジェローム・カーンのスタンダード曲に加えて、デンマークのカール・ニルセンや米国のスティーブン・フォスターの楽曲も採用し、個性を打ち出している。ピアノ&ドラムはジャズのデュオ・チームとしては必ずしも多数派ではなく、その意味でNordNoteはリスナーに新鮮な印象を与えるに違いない。
【アルバム情報】
NordNote/NordNote
1.Into the sound(Taihei Asakawa)
2.Lady of silences (Taihei Asakawa)
3.Non (Taihei Asakawa)
4.Line (Taihei Asakawa)
5.Sænk kun dit hoved du blomst (Carl Nelsen)
6.Cirkus (Taihei Asakawa)
7.May wind (Kazumi Ikenaga)
8.Fragility (Taihei Asakawa)
9.In love in vain (Jerome Kern)
10.Beautiful dreamer (Foster)
■NordNote:池長一美(ds) 浅川太平(p)
Recorded at 100ban studio in Kobe, November 25th 2019
■Time Machine Record TMCD-1020
Produced by Kazumi Ikenaga and Taihei Asakawa
Recorded, Mixed and Mastering : Akihiko Goto(Time Machine Record)
Design : Yumi Nishimoto
Cover Photo : Martin Dam Kristensen
Piano Tuning : Yuko Suzuki
2020年5月20日、全国リリース
池長一美からのメッセージ
今回のレコーディングは神戸のライヴハウスを通常の営業後、深夜から早朝までを借り切って行われました。
11月末、この日の神戸は肌寒く、ホットの缶コーヒーをホカロンがわりに手を温めた記憶があります。
当日はドラムセットを持ち込みましたが、一曲収録後、気分的にしっくりこなくて、周りを見渡すと、舞台袖に無造作に積んであった置きドラムを見つけました。
自分のものとは状態が違うセットでしたが、とっさに「これ使ってみよう!」と判断しました。
置きドラムは僕が個人的に使っているハイピッチのものとは異なり、かなり低くチューニングされていて、強く叩くとロックっぽく聴こえて、日頃の僕のカンカラカンのハイピッチを知る人だと、すごく意外に思われるかもしれません。でもその判断が今回は功を奏し、作品に独自のカラーを添えたと感じております。
浅川氏のピアノサウンドはこの夜も神秘に満ちていました。
セッション中に幾度かのミラクルが生まれました。
二つの全く別の生き物がそこに存在して、そのコントラストが独自の立体性を帯びて浮かび上がってくる。
ライナーに書いた覚えがあります。
楽曲それぞれに想いがあり、それぞれがそれぞれのドラマを秘めています。
このアルバムはその感動を掬い上げることに成功しています。
この度のコロナウイルスの世界的な感染拡大によって人々の心が、未知のウイルスへの恐怖、言いようのない未来への不安などネガティブな感情に支配されていると思います。
そんな中でも我々ミュージシャンは音楽を奏でることしか出来ません。
自分たちもそれが自らの救い以上の何かになることは自覚しています。
この世の中が平穏な日常を一刻も早く取り戻せるよう、そして、今こそ癒しを必要とする多くの方々に聴いていただければこの上ない幸せです。(池長一美)
浅川太平からのメッセージ
池長さんのお名前は高田ひろ子さんのアルバム『Elma』やマグナス・ヨルト(p)さんのアルバム『plastic moon』等で以前より拝聴していて、欧州・アメリカ・日本というそれぞれの異なる音楽シーンの中で活動されながら、そこから独自の美意識を築いた孤高な印象でした。
しかしお会いすると驚くほどの気さくさと自然な佇まいで拍子抜けするほど。自分の演奏も運良く気に入ってくださって、それ以降池長さんとはオリジナルやスタンダード等の楽曲での演奏からすべて即興での演奏まで、あまり型にとらわれずに演奏してきました。
シンプルで原始的な土の音、型のない水の音、光に向かう祈りの音。そのなかで二人の透明な叙情が顔を出し、その根底に「北」があることに気がついたのです。
眼に見えない聖なるものへの畏敬。森羅万象への分け隔てない眼差し。森や宇宙とも融和する原初性。
そのようなワードを巡らせながら作曲、そして録音しました。
今回Time Machine Recordの五島さんのお力もあって、瑞々しく鮮度の高い音に録って頂けたのはとても幸運なことでした。
ドラムスとのデュオは以前から好きな編成で、特にECMや日本のレジェンド達の録音をよく聴いてきました。
Keith Jarrett・Jack DeJohnette、Paul Bley・Paul Motian、Dino Saluzzi・Jon Christensen、Stefano Battaglia・Michele Rabbia、森山威男・Mal Waldron、山下洋輔・冨樫雅彦、菊地雅章・冨樫雅彦等(敬称略)。
かつて偉大な先人の足跡に憧れ影響を受けてきましたが、いまは、己について、人について、社会について考えることばかり。より身近なところから遥か彼方を見るようになりました。
NordNoteの「北」の佇まいから、音楽シーンに新たな地平を切り開いていけたらと思います。
【Drums 池長一美(いけなが かずみ)】
京都市出身
12歳のとき独学でピアノ、ドラムスをはじめる。
1986年 上京後、鈴木勲、金井英人他のグループで活動。
1989年 バークリー音楽大学の奨学生として渡米。ジョー・ハントに師事。
1991年 合衆国政府より滞在芸術家としてアイオワ州ルーサー大学のジャズ科講師に迎えられ、ユニファイ・ジャズ・アンサンブルの一員として米国各地で演奏活動を行う。
1995年 帰国。
1998~2015年バート・シーガー・トリオ(通算5枚のCDをリリース)で毎年ツアー活動を継続。
2009年~2013年 マグナス・ヨルト・トリオで日本ツアーを行う。
2枚のCD(2009年国内ライヴ盤、2010年デンマーク・スタジオ録音盤)をリリース。
2015、16年 それぞれ夏に、デンマークのコペンハーゲン・ジャズ・フェスティヴァル、オーフス・ジャズ・フェスティヴァルに招聘され、
クリスチャン・ヴースト、ソレン・ダール・ヤッペセン、ヤコブ・ブキャナン、ヤコブ・ディネセン他のグループで演奏する。
過去の主な共演者:ジョージ・ガゾーン、クリス・チーク、マット・ギャリソン、カート・ローゼンウインケル、オテロ・モリーノ他
現在、国内では中牟礼貞則、山口真文、中川昌三、石井彰、ハクエイ・キムなど様々なジャズ・アーティストと定期的に活動する傍ら、様々なセッションでも各所で精力的に活動する。
2019年 復帰したピアニスト小林洋子とのThe Third TribeではNearly Dsukをリリースしアクティブに活動し、各所で好評を得ている。
近年はより自己のオリジナルやコンセプトを前面に打ち出し、独自の活動を繰り広げている。
空間を活かし、暖かく美しい音色で語りかける独自のドラミングスタイルに国内外を問わず根強い支持者を持つ。
参加作品はCD、DVDを含め40作を超える。
【Piano 浅川 太平( あさかわ たいへい )】
1977年札幌出身。
父が札幌のライヴハウス「銀巴里」(~2012)を経営し、母が歌手であったため、幼いころはシャンソンをよく聴く。
3才よりクラシック・ピアノを始める。
1996年、洗足学園短期大学でジャズを専攻し、卒業後バークリー音楽大学より奨学金つきの編入資格を得るも独学の道を選ぶ。
2004年、横浜JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション、ベストプレイヤー賞受賞。
2007年に1stアルバム『Taihei Asakawa』(Roving Spirits)、2011年に2ndアルバム『Catastrophe in Jazz』(Roving Spirits)、2013年に3rdアルバム『Touch of Winter』(D-musica)、2018年に初のスタンダードでのライヴ録音となる4thアルバム『Waltz for Debby』(Cortez Sound)をそれぞれリリース。
2019年、日本とヨーロッパを中心に国際的な活動を続けているドラマー池長一美とデュオユニットNordNoteを結成し、2020年デュオアルバム『NordNote』をリリース。
クラシック・ピアノで培った音色と、左手のアプローチを極限まで追求したそのサウンドはオリジナル曲の美しさと相まって、確固たる個性と美意識を形成し、各方面から高い評価を得ている。
【ライヴ情報】
NodeNote (Ds 池長一美、Pf 浅川太平) CDリリース記念ライヴ
■8/20(木)新宿 ピットイン 03-3354-2024 夜の部 start 20:00〜 Charge 3000
東京都新宿区新宿2-12-4アコード新宿B1
http://www.pit-inn.com/index_j.php
■9/26(土)西宮 フレンテホール 0798-32-8660 1st 19:00〜 2nd 20:30〜
前売1500 当日1800/*1starge につき
西宮市池田町11-1 フレンテ西宮5F
予約:0798 32 8660/Frentehall .jp
■10/3(土)多摩 WARP 15:00〜 Charge 3000
東京都八王子市別所2-38-91
https://librize.com/places/1401/info
予約:mikoba@pdx.ne.jp (小林)