1982年生まれのオメル・クライン(p)は、イスラエル出身者ではキャリア・実力共にトップランナーであるベーシスト、アヴィシャイ・コーエン(1970年生まれ)より一回り若い世代。高校卒業後にアメリカで学んでプロ活動に入った経歴は、プロを志す同国人にとっての王道路線を踏襲したと言える。
ハガイ・コーエン=ミロ(b)+アミール・ブレスラー(ds)とのトリオは、2015年に『Fearless Friday』(Neu Klang)でアルバム・デビュー。次作『Sleepwalkers』(2017年)でWarner Musicへ移籍し、『Radio Meditation』(2019年)、ソロ&トリオ作『Personal Belongings』(2021年)と、コンスタントに作品を重ねてきた。
2023年リリースの最新作『Life & Fire』は、トリオ結成10周年の節目に制作。その祝賀感を演出するために、友人たちをスタジオに招いたセッティングで収録された。全9曲はすべてクラインのオリジナルで、初収録曲と新アレンジの再演曲で構成。唸り声と共にキース・ジャレットを想起させる雰囲気を醸し出しながら最後までリーダーとしての存在感を放つ「ザ・レイヴンズ」、イスラエル的主旋律を織り交ぜた「カンタンド」「マルホート」、メランコリックなスローテンポがやがて熱を帯びる「ワン・ステップ・アット・ア・タイム」、リズミカルな展開でトリオの絶好調ぶりを聴かせるMV公開曲「ニグン」等、トリオの充実した姿を伝える内容だ。
【Special interview for PJ: Omer Klein オメル・クライン インタヴュー】
――10年間を振り返って、トリオの歩みを教えてください。
OK:初共演から変わらないのは、一緒に演奏することとツアーで同じ時間を過ごすことに大きな喜びを感じている点だと思います。進歩したのは、トリオの共同制作の質です。私たちはより自由になり、お互いを、そして自分自身をより信頼し、より多くのリスクを冒すようになりました。10年前に比べて、一層積極的で冷静に演奏することができるようになったのです。
――ハガイとアミールの魅力は何だと思いますか?
OK:彼らのどこが特別なのかと問われると、言葉にするのは難しいですね。2人とも個性的で、自分たちらしい音楽を奏でます。私は、強力な個性を持つ音楽パートナーに恵まれて嬉しく思っています。
――Warner Music Germanyとはどのように契約したのですか?
OK:2016年頃、Warner Musicの代表者が私の作品を聴き、私の音楽に興味を持ち、トリオを直接聴きに来てくれました。ハンブルクでのコンサートの時だったと思います。その後、彼らは私に契約を申し出てくれました。それ以来、彼らとコラボレーションを続けていて、幸いだと思っています。
――Warnerからの4枚のアルバム(『Life & Fire』を含む)は、1年おきの奇数年にリリースされているのが興味深いです。
OK:私とWarnerがそれをルールにしているわけではありません。偶然の一致ですよ。
――前作のフル・トリオ・アルバム『Radio Mediteran』のジャケットには「Omer Klein Trio」とクレジットされていましたが、『Life & Fire』のジャケットは3人並記です。表記の変更に特別な理由があるのでしょうか?
OK:はい。『Sleepwalkers』(2017年)は、私一人で何ヵ月もかけて作曲し、細かいコンセプトを構築したアルバムです。もちろん、ハガイとアミールはその重要なパートナーになりましたが、Warnerの友人たちは、このアルバムでは私の名前をアーティスト・ネームにすることに意味があると考えました。また、トリオはその頃に始まったばかりだったのです。『Radio Mediteran』(2019年)では、アーティスト名を「Omer Klein Trio」にしてもらいました。私自身は個人名で長く制作してきましたが、グループとしての活動もかなり長く、非常に意味のある創造的なプロセスを経ています。
『Personal Belongings』(2021年)は、6曲のソロと4曲のトリオからなるアルバムなので、私の名前を使うことに再び意味がありました。そして『Life & Fire』は、明らかに私たちの一体感を祝うアルバムなので、ジャケットに3人の名前を同等に表示するようにお願いしました。
――新作のコンセプトを教えてください。
OK:今回は、トリオの10周年記念作品。というわけで楽しみながら制作したいと考えました。ベルリンの小さなスタジオで、ヘッドフォンを使わず、楽器をブースで仕切らずに、レコーディング中は友人を観客として招いて、私たちが好きな過去のレパートリーと、私が持ってきたいくつかの新曲を演奏しました。
――「One Step at a Time」「Niggun」「Spilt Milk」は、以前のトリオ・アルバムからの再演曲です。
OK:自分たちの代表的な曲をもう一度見直して、新鮮なヴァージョンを作るという新作のコンセプトに合っていました。レコーディングしてから100回以上ライヴで演奏している曲なので、生き生きと表現する演奏方法を手に入れており、新作に収録してみなさんと共有する価値がある、と考えたのです。
――アルバムからのファースト・シングル「Niggun」は、新作の中で最も優れたトラックだと思います。この曲はどのように誕生したのでしょうか?
OK:2000年代後半にニューヨークに住んでいた時に作曲しました。ふとした瞬間に頭に浮かびました。インスピレーションを受けた曲です。
――新作を通して、リスナーに伝えたいことは?
OK:美しさ、暖かさ、愛、激しさ、優しさ、です。
(2023年3月、Eメールにてインタヴュー)
【作品情報】
Life & Fire / Omer Klein Trio
■①The Ravens ②Song #2 ③3/4 Mantra ④Tzuri ⑤Cantando ⑥One Step At A Time ⑦Niggun ⑧Spilt Milk ⑨Malchut
■Omer Klein(p) Haggai Cohen-Milo(b) Amir Bresler(ds) (c) 2023
■Warner Music Germany 5419.742560
●『Life & Fire』試聴:
●MV: Omer Klein Trio / Niggun: