12歳からファミリー・バンドで音楽活動を始め、18歳で初リーダー作をリリースするという早熟の才能を発揮したキンガ・グゥイク。2016年のメジャー・デビュー作『ドリーム』では、著名実力者のティム・ガーランド(sax)、ニタイ・ハーシュコヴィッツ(p)、グレゴリー・ハッチンソン(ds)を迎え、自作曲とジャコ・パストリアス曲のカヴァーで飛躍した姿を印象付けた。
2024年1月リリースの最新作『リアル・ライフ』は、スナーキー・パピーのリーダーでグラミー賞受賞者のマルチプレイヤーであるマイケル・リーグが全面的に参画しているのが大きな特色だ。リーグは共同プロデューサー、楽曲制作者に加えて、キーボード、ギター、エレクトリック・シタールでも貢献しており、キンガのレコーディング・キャリアの新たな扉を開いた立役者と言えよう。参加ミュージシャンはキーボードのブレット・ウィリアムズ(マーカス・ミラー、スティーヴィー・ワンダー)、カレブ・マッキャンベル(ビヨンセ、マイケル・ブーブレ)、ジュリアン・ポラック(デヴィッド・サンボーン)、ニコラス・セムラド(ミス・ローリン・ヒル、ブーツィ・コリンズ)、ドラマーのロバート・シーライト(スナーキー・パピー、カーク・フランクリン)。また今年3月に45歳で急逝したエアロフォン奏者のケイシー・ベンジャミン(ロバート・グラスパー・エクスペリメント、ステフォン・ハリス)が1曲を除く全曲で演奏しているのも価値が高い。
合わせて4人の鍵盤奏者を起用した音作りは、意外にも70年代フュージョンと親和性があって、それが温故知新の趣を表出している。またカヴァー曲を収録した過去作とは異なって、12曲すべてをキンガが手掛けており、ソングライターへシフトした点も進化した姿として見逃せない。
Special interview for PJ: Kinga Głyk キンガ・グゥイク インタヴュー
――エレクトリックベースを弾き始めたのはいつですか? この楽器を選んだ理由は?
KG:音楽を好きになった頃からベースに魅了されました。ずっとベーシストになりたかったのです。誰かが具体的にベースを教えてくれた記憶はなくて、私が自分で選んで、この楽器を弾きたいと思っていました。低音とベースが私に与えてくれる可能性が好きです。この楽器は今では自分の一部だと感じています。強く結びついていて、この楽器が正しい選択だったことは間違いありません。
――ジャコ・パストリアスとヴィクター・ベイリーはあなたに大きなインスピレーションを与えたと思います。二人の偉大なベーシストから得たものは何ですか?
KG:数多くのベーシストにあって、確かに二人とも素晴らしいインスピレーションを与えてくれています。ジャコとヴィクターはスタイルの面でかなり異なります。ジャコはとても正確で、リズミカルで、開拓精神に富む、誰もがすぐに彼だとわかる独特のサウンドを持っています。一方、私にとってヴィクターはとてもメロディックで、よりソフトです。技術的にはより先進的で、まったく異なる方法で即興演奏をします。二人とも素晴らしいミュージシャンなので、共感できる側面を見つけました。ジャコの楽曲では特に「ポートレイト・オブ・トレイシー」と「コンティニューム」が大好き。ヴィクターも自身のアルバムで取り上げていますね。ジャコのデュエット・ヴァージョンである「ドナ・リー」は本当に素晴らしいです。ヴィクターに関して言えば、最初に思い浮かぶのは「ロウ・ブロウ」と「シー・レフト・ミー」、そして彼のバージョンの「カウントダウン」です。私はまだ彼らの音楽について発見し、学んでいる最中だと言わなければなりません。
――『ドリーム』(2017年)はニタイ・ハーシュコヴィッツ(2023年にECMからソロ・アルバム「Call On The Old Wise」をリリース)らとのオールスター・アルバムでした。このアルバムはどのようにして実現したのですか?
KG:アルバム『Dream』は国際的に活躍するミュージシャンと仕事をする初めての経験で、
私にとっては大きな挑戦でした。振り返ってみると、プレッシャーを感じたのと同時に、すべてが新鮮でした。参加ミュージシャンに大変感謝しております。グレッグ・ハッチンソン、ティム・ガーランド、ニタイ・ハーシュコヴィッツは、レコーディング・プロセス全体を通じてとても協力的で創造的でした。メンバー全員から多くのことを学び、感銘を受けました。彼らの演奏スタイルや、素早く解決策を見つけて素晴らしいアイデアで音楽に貢献する方法を観察したのです。
――2022年8月25日フランクフルト放送ビッグ・バンドと共演しましたね。このコンサートがどのようにして実現したのか興味があります。
KG:hr(Frankfurt Radio Big Bandの略称)との共演は、私にとってまったく新しい経験でした。大規模なアンサンブルで演奏する初めての機会だったので。ステージ上でバンドからの強力なサポートがあり、同時にバンドが主役を演じる時に私がサポートできるのは信じられないことです。フロントを務めることと伴奏の役割を切り替えるダイナミックさを楽しんでいます。一般的に、デュエットではそれほど多くのことが起こらないかもしれないけれど、最も重要なルールは相手の演奏をよく聴くことだと思っています。ステージに上がる人数が多ければ、このスキルの価値はさらに高まり、より広い範囲に集中する必要があります。
●KINGA GŁYK | Frankfurt Radio Big Band | full concert:
――アルバム・タイトル『リアル・ライフ』の由来と、アルバム・コンセプトを教えてください。
KG:アルバム・タイトルが『Not Real』から『Real Life』に落ち着くまでには長いプロセスがありました。よりポジティブな意味を持つ“Real Life”をスタッフと共に選んで良かったとおもいます。ある夜、私がミュージシャンとしての自分の役割と価値を理解するのに苦労していた時にすべては始まりました。特にインターネットの時代では、自分たちを比較する傾向があって、誰もが自分自身を宣伝しようとしています。多くの場合、私たちは自分の仕事の成功面だけを共有し、評価され、自分の職業で達成し、強いと思われたいと考えているものです。私たちは、たとえ目に見えなくても、舞台裏の懸命な努力を忘れがちなので、これは危険なことだと気づきました。自分たちの価値を認識することと、完全な真実を示す際のソーシャルメディアの限界を理解することは、私たち全員が作り上げるフィクションではなく、現実と“現実の生活”にもっと焦点を当てるべきだと教えてくれました。他人の成功を見て一日を始めると、頑張ろうという気になるか、まったくやる気をなくすかのどちらかです。私は、インターネットを仕事のためのプラットフォームとして、ある程度の距離を置いて捉えるようにしています。私たちは皆、現実の生活の中で良いことも悪いことも経験しているのですから。
――新作で最も重要な人物は、共同プロデューサー、ソングライター、マルチ奏者のマイケル・リーグです。彼とはどのように知り合い、音楽的なパートナーシップを育んだのでしょうか?
KG:マイケルが新作で私と一緒に仕事をすることに同意してくれたのはとても幸運だったと思います。彼に共同プロデュースをしてほしかったので、私が所属するWarner Music Germanyに繋いでもらいました。断られるかもしれないと思うと、とても怖かったのですが、本当に実現するとわかった瞬間は、特別で興奮しましたね。制作過程とレコーディングの両面を通じて多くのことを学びました。彼はとても経験豊富で、物事をうまく機能させて、素晴らしいサウンドを生み出す方法を本当に知っている貴重なプロのミュージシャン。一緒に仕事をするのは、これが最後でなければいいのですが。
――「ファスト・ライフ」等の楽曲では複数のキーボード奏者と一緒にレコーディングしましたね。
●Kinga Głyk – Fast Life (Official Video):
KG:①「Fast Life」では3人のキーボード奏者とケイシー・ベンジャミンが演奏しています。EWIとキーボードはサウンドが非常に似ているため、混同されることがあります(注:キンガの回答には「EWI」(Electric Wind Instrument)と記されているが、ベンジャミンのアルバム・クレジットは「aerophone」)。元々この曲にキーボード奏者を 3 人入れる予定はありませんでしたが、そうしたいとは思っていました。ニコラス(・セムラド)とジュリアン(・ポラック)にサポートしてもらって、良いサウンドに仕上がったのです。2人とも優れたアイデアを持っていたので、楽曲が素晴らしいものになりました。私たちは皆、音楽に対するユニークなアイデアやアプローチを持っていて、それはとても興味深いことです。同じ曲と同じ音なのに、誰もが違う演奏をする。アルバムに数人のドラマーが参加したり、同じ楽器を演奏する数人を起用する理由は、全員が特別な貢献をしてくれるからです。新作に多くのキーボード奏者に参加してもらった所以です。4人全員(ブレット、ニコラス、ジュリアン、カレブ)は語彙が異なり、独自の方法で話します。
――日本のリスナーへのメッセージをお願いします。
KG:私にとって音楽は壁がなく、人々の心を動かすことができる言語です。『Real Life』の音楽が日本のリスナーに、サウンドそのもの以上の異なるレベルで語りかけることを願っています。
(2024年4月、Eメールにてインタヴュー)
【アルバム情報】
Real Life / Kinga Głyk
■①Fast Life ②Unfollower ③Who Cares ④Island ⑤Not Real ⑥Swimming in the Sky ⑦The Friend You Call ⑧That Right There ⑨Sadness Does Not Last Forever
■Kinga Głyk (el-b,vo) Casey Benjamin (aerophone) Brett Williams, Julian Pollack, Nicholas Semrad, Michael League, Caleb McCampbell (key) Robert“Sput”Searright. (ds) ©2024
■Warner Music Germany 5419761758
●『Real Life』試聴:
●official website: https://kingaglyk.com/