2012年にモニカ・ゼタールンドの1959~60年のEP5枚の音源を集めたCD『Don’t Dream Of Anybody But Me』で、ファンから大きな支持を集めた英レーベルelが、またまた嬉しい仕事をやってくれた。ビル・エヴァンスのコンピレーションはこれまでに数多くのタイトルが内外で発売されているが、同一レーベルの音源が定石だ。その点で本作は明確なコンセプトに基づいて、レーベルを横断した選曲と編集がなされている。アルバム・カヴァーに「collaborations, trio and guest sessions 1955 to 1962」と記されているように、ダブル・リーダー作、トリオ・リーダー作、参加作から、アルバム1枚につき1~3曲を選び、クロノジカルに配列した内容だ。
55~62年の7年間という設定に関して発売元は、「素晴らしく国際的なピアニストの、目も眩むほど急速に進化した最初の7年間のキャリアに制作されたレコーディング」を根拠にしている。エヴァンスの初リーダー作が56年の『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』だったことを踏まえると、同作からのDisc 1②から説き起こしてもよかったと思うのだが、前年の『シンギング・ルーシー・リード』というエヴァンス・ファンのコレクターズ・アイテムからの皮切りに、選者のマニアックなセンスがいきなり伝わってくる。
7年間のすべての参加作を網羅するのが理想だったかもしれないが、それでも重要なポイントは押さえていて、Disc 1③にエヴァンスが影響を受けたジョージ・ラッセルの56年作における初期代表的ソロが聴ける楽曲を入れたのは価値と見識がある。ファンには68年の『モントルー・ジャズ祭』で知られるDisc 1⑥が、実は録音前日にアール・ジンダースが作曲し、ジョー・ピューマが曲名を付けた『ジョー・ピューマ・トリオ・アンド・カルテット』がエヴァンスの初演だった事実を選者は伝えたかったのではないだろうか。Disc 2はチェット・ベイカー、マイルス・デイヴィス、キャノンボール・アダレイのような定番作に加え、ビル・ポッツ、トニー・スコット、カイ・ウィンディングにも目配りし、オリヴァー・ネルソン『ブルースの真実』からは意外な⑮を選曲。
Disc 3は『ワルツ・フォー・デビイ』『アンダーカレント』『ハウ・マイ・ハート・シングス』『ムーンビームス』『インタープレイ』『エムパシー』というエヴァンスのリーダー作を中心に、デイヴ・パイク、タッド・ダメロンの作品からもセレクト。これは60年代に入ってリーダー活動へシフトし、50年代よりも参加作が少なくなったためだと思われる。では62年で区切った理由は何かと推察すれば、RiversideからVerveへの移行期を節目にしたのではないか。50年ルールを重ねれば、数年後にVerveにフォーカスした新しい切り口のコンピレーションが登場することに期待が寄せられる。20ページのブックレットにはエヴァンスと関係者による発言集が記載されていて、その収集労力を評価したい。モニカ盤同様、出典のデータはパーソネル、録音年月日と都市、スタジオ、プロデューサー、エンジニア名まで網羅しており、編者のこだわりぶりに共感を抱く。