PJではビル・エヴァンスに関する情報を独立した項目として設計しており、レヴューやインタヴューを掲載してきた。私は2002年に世界で初めてジャケット写真をすべてカラーで収録した『ビル・エヴァンス[ディスコグラフィー]』を刊行し、大きな反響を得た。その後も様々な未発表作が世に出ており、今回は同書の構成を踏まえて、まずリーダー作にフォーカスして偉大なレコーディング・キャリアを浮き彫りにする。定期的に10タイトルをアップする、連載形式で進める予定だ。
❶ VERY EARLY VOLUME 1 / BILL EVANS (E3 Records E3R0008)
■George Bache(ts) “Willie Fingers” Evans(p) Connie Atkinson(b) Frank “Fluffy” Wrobel(ds) unknown date
①The Way You Look Tonight
■George Bache(ts) Bill Evans(p) Walt “Kaye” Kawalski(b) Frank “Fluffy” Wrobel(ds) 1943
②C Jam Blues ③The Man I Love
■Alby Dielman(ts) Bill Evans(p) Walt “Kaye” Kawalski(b) George Bache(ds) 1945.5.18
④To Harry From Family – Ladies And Gentlemen ⑤To Harry From Family – Improvising
■Bill Evans(p) Dottie Drews(vo) 1946
⑥Embraceable You
■same personnel,1947
⑦Body And Soul
■add Frank “Fluffy” Wrobel(ds) 1947
⑧The Best Man
■Russ Rocandro(cl) Bill Evans(p) Connie Atkinson(b) 1947.8.25
⑨I May Be Wrong ⑩Almo
■Bill Evans(p) Art Hammond(vo) 1949.4
⑪It’s Love, It’s Christmas
■Bill Evans(p) 1949.4
⑫Body & Smoke Medley ⑬Toccata ⑭Moonlight Medley ⑮Just You, Just Me
エヴァンスの実息であるエヴァン・エヴァンスがプロデューサーを務めるレーベルから2000年にリリースされた驚愕の未発表音源作。54年の初録音よりも古い音源を含むプライヴェート録音だ。14歳のエヴァンスがスウィング・スタイルで軽快に演奏する②、兵役中の兄に宛てた④⑤、歌伴奏でも巧みさを聴かせる⑥等々。とりわけ19歳のエヴァンスがスウィングとビバップを消化し、後年の個性的なスタイルを垣間見せる⑭が非常に興味深い。
❷ NEW JAZZ CONCEPTIONS / BILL EVANS (Riverside RLP12-223 / OJCCD-025-2*)
■Bill Evans(p) 1956.9.18, NYC
③I Got It Bad And That Ain’t Good ⑧Waltz For Debby ⑩My Romance
■Bill Evans(p) Teddy Kotick(b) Paul Motian(ds) 1956.9.27, NYC
①I Love You ②Five ④Conception ⑤Easy Living ⑥Displacement ⑦Speak Low ⑨Our Delight ⑪No Cover, No Minimum (tk 2) ⑫No Cover, No Minimum (tk 1)*
26歳のエヴァンスが吹き込んだ公式初リーダー作。当時トニー・スコット・カルテットに在籍していた関係で、同僚のコティックとモチアンを起用。Riversideでアルバムを制作した友人のマンデル・ロウ(g)の仲介で、同レーベルへの初録音が実現した。11曲中4曲がエヴァンスの自作で、生涯の代表曲となる⑧の初演がソロ・ピアノだったことは見逃せない。本人はナット・コール、バド・パウエルやマイルス・デイヴィスからの影響を認めていて、さらにレニー・トリスターノの影が感じられるのも興味を惹く。大胆なアルbム名は以後の活動によって、実証されることになる。
❸ TENDERLY / BILL EVANS – DON ELLIOTT (Milestone MCD-9317-2)
■Bill Evans(p) Don Elliott(vib,per) 1956,57, Connecticut
①Tenderly ②I’ll Take Romance ③Laura ④Blues #1 ⑤I’ll Know ⑥Like Someone In Love ⑦Love Letters ⑧Thou Swell ⑨Airegin ⑩Everything Happens To Me ⑪Blues #2 ⑫Stella By Starlight ⑬Funkallero
2001年に初アルバム化。エヴァンスがエリオット・グループに在籍していた時期に、2人はエリオットの個人スタジオでデュオ録音を行っていた。未発表音源に編集の手を加えずにそのままCD化したことで、ドキュメンタリー・タッチの迫力が生まれている。完奏テイクでも、演奏の途中で言葉を交わしながら進行する場面があり、隠れていた歴史の裏側を知るような興奮を覚え、実にスリリング。共作のブルース④⑪や62年の『インタープレイ・セッションズ』が公式初演の⑬は重要な新発見だ。単なるリハーサルとは言い切れないクオリティの高さは、間違いなく正式なレコーディングの前段階。マイルス・グループ参加前の時点で、エヴァンスがほぼスタイルを完成させていたことが何よりの驚きだ。
❹ EVERYBODY DIGS BILL EVANS (Riverside RLP12-291 / OJCCD-068-2*)
■Bill Evans(p) Sam Jones(b) Philly Joe Jones(ds) 1958.12.15, NY
①Minority ②Young And Foolish ④Night And Day ⑥Tenderly ⑧What Is There To Say ⑨Oleo
■Bill Evans(p) same date
③Lucky To Be Me ⑤Epilogue ⑦Peace Piece ⑩Epilogue ⑪Some Other Time*
ソロ・デビューから2年。この間ジョージ・ラッセル楽団での名演、マイルス・デイヴィス・クインテットへの参加と、大きくステップ・アップした第2弾は、前作同様ソロとトリオで構成。メンバーは5ヵ月前に参加したキャノンボール・アダレイ『PORTRAIT OF CANNONBALL』と同じリズム・セクションということもあり、ハードバピッシュな①でスタート。時代背景と共演者を考えれば当然の作風かもしれないが、エヴァンスらしいリリカルで繊細なピアニズムが現れており、これらの二面性が本作の特徴と言える。中でもレナード・バーンスタイン曲⑪をエヴァンス流に発展させた自作曲⑦は、後年に開花するポスト・ハードバップ・スタイルの原点。マイルスらの推薦文をあしらった異例のジャケットが、エヴァンスへの期待度を物語る。
❺ GREEN DOLPHIN STREET / BILL EVANS (Milestone M47024)
■Bill Evans(p) Paul Chambers(b) Philly Joe Jones(ds) 1959.1.19, NYC
①You And The Night And The Music ②How Am I To Know ③Woody’n You (tk 1) ④Woody’n You (tk 2) ⑤My Heart Stood Still⑥On Green Dolphin Street
録音から20年近くもお蔵入りになっていた音源。アメリカではリイシュー・シリーズの2LP『PEACE PIECE AND OTHER PIECES』(『ECERYBODY DIGS BILL EVANS』とのカップリング)で日の目を見たが、阿部克自撮影の写真を使用したオリジナル国内盤ジャケットが秀逸。チェット・ベイカー『CHET』と同日録音で、何と言ってもマイルス・デイヴィス・セクステットのトリオ作はこれだけ、という点が貴重だ。『INTERPLAY』(62年)のクインテット・ヴァージョンに先立つ①、マイルス・セクステットのレパートリーでもある③④、スタン・ゲッツとの64年共演盤でも再演した⑤を収録。『1958 MILES』から8ヵ月後の⑥の清涼感が魅力。CD化に際してアルバム名が『ON GREEN DOLPHIN STREET』に修正された。
❻ THE IVORY HUNTERS / BOB BROOKMEYER – BILL EVANS (United Artists UAL4004)
■Bob Brookmeyer, Bill Evans(p) Percy Heath(b) Connie Kay(ds) 1959.3.12, NYC
①Honeysuckle Rose ②As Time Goes By ③The Way You Look Tonight ④It Could Happen To You ⑤The Man I Love ⑥I Got Rhythm
エヴァンス生涯唯一のダブル・ピアノ作。NY進出以来の友人であり、ジョージ・ラッセル『NEW YORK, N.Y.』で共演していたブルックマイヤーは、言うまでもなく白人ヴァルブトロンボーンの第一人者。当初ワン・ホーン・カルテットによるレコーディングが予定されたにもかかわらず、プロデューサーのアイデアで急遽2リズムも含めて変更されたセッティングである。もちろんブルックマイヤーがジミー・レイニーやジェリー・マリガン作等でピアニストの経験があるからこその英断は結果、ユニークな成果をもたらした。選曲はガーシュウィンを始め、エヴァンスらしからぬ歌ものが多いのも、本作ならでは。エヴァンスにとって初の試みは、後年の多重録音作『自己との対話』制作のヒントになったとも考えられ、その意味では見落とせない価値がある。
❼ PORTRAIT IN JAZZ / BILL EVANS (Riverside RLP-315 / 0888072306783*)
■Bill Evans(p) Scott LaFaro(b) Paul Motian(ds) 1959.12.28, NYC
①Come Rain Or Come Shine(tk 5) ②Autumn Leaves ③Witchcraft ④When I Fall In Love ⑤Peri’s Scope ⑥What Is This Thing Called Love ⑦Spring Is Here ⑧Someday My Prince Will Come ⑨Blue In Green (tk 3) ⑩Come Rain Or Come Shine (tk 4)* ⑪Autumn Leaves (tk 9, mono) *⑫Blue In Green (tk 1) *⑬Blue In Green (tk 2)*
59年秋に紆余曲折を経て、エヴァンスは新しいトリオを結成した。初リーダー作以来親密な関係にあったモチアンと、新鋭ベーシストのラファロとの“ファースト・トリオ”である。前年にマイルスとの共同作業を通じて、新時代のジャズを模索したエヴァンスは、この2人を得たことにより、想像以上のスピードでピアノ・トリオのニュー・コンセプションを確立。ビバップ期のピアノ主導+2リズムという関係から、三者が対等で相互に刺激し合うインタープレイ・スタイルを打ち出したのであった。①から緊張関係が横溢。②からこれほど辛口のサウンドを生み出したジャズメンは、後にも先にもエヴァンス・トリオだけだ。ラファロの鋭角的なベースは、今聴いても身震いするほど。短くも美しく燃えたトリオの第1作。
❽ THE 1960 BIRDLAND SESSIONS / BILL EVANS (Cool & Blue C&B-CD 106)
■Bill Evans(p) Scott LaFaro(b) Paul Motian(ds) 1960.3.12, NYC
①Autumn Leaves ②Our Delight ③Beautiful Love / Five
■same personnel, 1960.3.19
④Autumn Leaves ⑤Come Rain Or Come Shine / Five
■same personnel, 1960.4.30
⑥Come Rain Or Come Shine ⑦Nardis ⑧Blue In Green ⑨Autumn Leaves
■same personnel, 1960.5.7
⑩All Of You ⑪Come Rain Or Come Shine ⑫Speak Low
ファースト・トリオのオリジナル・アルバムは4枚。それらは59年録音が1枚と61年録音が3枚で、60年のエヴァンスはジョージ・ラッセルやカイ・ウィンディング&J.J.ジョンソン盤に参加したものの、リーダー作は残していない。初出LPはこの種のブートレグではお馴染みだったレーベルのAltoとSession。“バードランド”からの早朝番組のエアチェックを、コレクターのボリス・ローズが監修。長い間コレクターは2枚のアナログを探さなければならなかったのだが、やはりこの種の発掘を得意としたCool & Blueが92年にCD化。クラブ・ライヴという状況を差し引いても、ラファロの奔放なプレイには驚くばかり。演奏時間が異なる3テイクの「枯葉」が興味深い。
❾ EXPLORATIONS / BILL EVANS (Riverside RLP-351 / 0888072328426*)
■Bill Evans(p) Scott LaFaro(b) Paul Motian(ds) 1960.2.2, NYC
①Israel ②Haunted Heart ③Beautiful Love ④Elsa ⑤Nardis ⑥How Deep Is The Ocean ⑦I Wish I Knew ⑧Sweet And Lovely ⑨The Boy Next Door* ⑩Beautiful Love (tk 1)* ⑪How Deep Is The Ocean (tk 2)* ⑫I Wish I Knew (tk2)*
『ポートレイト・イン・ジャズ』から13ヵ月後のスタジオ録音作。60年は北米ツアーやNYタウンホールでのコンサートなど、ライヴ活動に力を注いだトリオは、この第2弾で前作とは少し趣の異なる姿を見せている。前作に認められた緊迫感の度合いが減少。替わって落ち着いた色調が濃厚になった。エヴァンス・レパートリーに貢献した重要な作曲家であり、個人的にも親しい友人関係にあったアール・ジンダースの④は、エヴァンスのために書かれたと言っていいくらいエヴァンスの音楽性に合致している。同じ意味でマイルス・デイヴィス作とクレジットされる⑤も、リリカルで内省的なエヴァンス・ミュージックの核となる部分を表現。③のピアノ・ソロ以降の曲展開が『ポートレイト~』の「枯葉」のそれと同様である点は見逃せない。
❿ SUNDAY AT THE VILLAGE VANGUARD / BILL EVANS (Riverside RLP-376 / ビクターエンタテインメントVICJ-60007*)
■Bill Evans(p) Scott LaFaro(b) Paul Motian(ds) 1961.6.25, NYC
①Gloria’s Step (tk 2) ②My Man’s Gone Now ③Solar ④Alice In Wonderland (tk 2) ⑤All Of You (tk 2) ⑥Jade Visions (tk 2) ⑦Gloria’s Step (tk 3)* ⑧Alice In Wonderland (tk 1)* ⑨All Of You (tk 1)* ⑩All Of You (tk 3)* ⑪Jade Visions (tk 1)*
ヴィレッジ・ヴァンガードに定期的に出演し、人気を高めつつあったエヴァンス・トリオは、61年6月に2週間の連続公演を行い、最終日の日曜日に初のライヴ・レコーディングに臨んだ。結成から1年半が経過、3人の協調関係が益々深まっていた中での本作は、繊細で豊饒なトリオの世界を最上の状態で記録したものだ。ここにはピアノ・トリオに求め得るリラクゼーションの究極の形がある。それは聴く者を心地良くするための音楽、という意味ではなく、あくまでもジャズ的な創造性を伴った“寛ぎ”。チャーミングなメロディを持つディズニー・ソングの④は、エヴァンスがワルツに当たり曲が多い法則を証明している。ベースの歴史を変えたスコット・ラファロが、作曲家としても優れた才能の持ち主だったことを知る①⑥。ベース・ソロがたっぷりなのも嬉しい。NYの名門ジャズ・クラブが生んだ歴史的な午後。