2014年以来5年ぶりに来日したピアニスト、ヴィジェイ・アイヤーのステージを、5月29日に丸の内コットンクラブで観た(1ststage)。前回は6月17日がソロで、18日から20日までがトリオだった。その時のトリオのステージ動画がYouTubeで公開されている。共演者はステファン・クランプ(b)、マーカス・ギルモア(ds)。
Vijay Iyer Trio : Live @ Cotton Club Japan (June18,2014)
最初にアナウンスされた今回のトリオのドラマーはタイショウン・ソーリーだった。私は2010年の独《Moers Festival》でスティーヴ・リーマン(sax)8と、イングリッド・ラブロック(sax)+クリス・デイヴィス(p)とのトリオを観て印象的だったのと、その後ソーリーがパワフルで前衛的であるばかりでなく、現代音楽にも造詣が深い知性派であることも知っていただけに、期待していた。代役のジェレミー・ダットンは日本では無名なので未知数。というわけで5年ぶりのアイヤーの今を確認することを主目的に、会場へ向かった。
「自分の古い曲と新しい曲、そして歴史を超えた曲を演奏します」とのアイヤーの前説で公演はスタート。1曲が終わって拍手を受けて次の曲、という通常の流れではなく、メドレーで進めることが途中でわかった。そんな中で出てきたのが、マイケル・ジャクソンの「ヒューマン・ネイチャー」だった。アイヤーは2010年発表作『Solo』と2012発表トリオ作『Accelerando』(以上ACT)に、この曲を収録している。
マイケル・ジャクソン(vo)83年のヒット曲は、マイルス・デイヴィス(tp)が85年発表作『You’re Under Arrest』でカヴァーし、他界する91年までライヴのレパートリーとしたことで、ジャズ・ミュージシャンにも波及。デヴィッド・ベノワ(key)、エリック・ルイス(p)、ユリシス・オウェンスJr.(ds)がレコーディングを残している。
アイヤーが初リーダー作から15年にして初めてリリースした独奏作『Solo』は、自作曲とスタンダードが中心のプログラムで、マイケルのポップ・ナンバーは異色の選曲だった。2度目の『Accelerando』は「ダンス・リズムを基にしたアメリカの創造的な音楽」が選曲コンセプトだったので、編成がトリオに拡大したことを含めて再演理由が理解できたし、アイヤーはこの曲が心底好きなのだなと思った。
話をステージに戻すと、印象的なイントロが流れてきた時、メドレーにおける場面転換のブリッジとして使うのだろう、が第一印象。ところが演奏は静かにエンド・テーマへ進んだところで、再び盛り上がってエンディングに至り、終わってみれば楽曲としての長時間演奏になって、アイヤー・トリオにとっての重要なレパートリーなのだと再認識した。
アイヤー・トリオは2014年6月のコットンクラブ公演でも、「ヒューマン・ネイチャー」を演奏している。
他にも通常テンポで始まり、後半テンポ・アップするとピアノを弾きまくる中で珍しくグリッサンドを出した「ナイト・アンド・デイ」や、アンコールに応えて一人で登場して弾いた『Solo』収録曲「ダーン・ザット・ドリーム」も選曲。ジャズ・ピアニスト=ヴィジェイ・アイヤーのルーツが垣間見られたのも収穫だった。