いつものように海外のニュース記事を検索している中で、自分のアンテナに触れたことがきっかけだった。元々が読書好きで、1980~90年代の14年間、書店で勤務した職歴や、2000年設立のbk1で初期の書評委員を務めた経験があり、現在は「ジャズジャパン」の海外ニュース執筆者。内外の新刊音楽書を常にウォッチしてきた私の視界に入ったのが、『Women In Jazz – The Women, The Legends & Their Fight』。女性ジャズ・ミュージシャンにフォーカスした洋書としては、95年刊の『Madame Jazz – Contemporary Women Instrumentalists』(Leslie Gourse著)が知られている。
私が書籍の記事を書く時は、現物にあたることを基本としており、それが難しい場合は現物に近い情報環境が必須となる。本書に関してはネット上で目次を確認できなかったのがネックとなったため、記事採用の断念も選択肢となったが、ダメ元で著者の Sammy Stein にFacebookでアクセス。するとすぐに返信が届いて、必要な情報が揃った。これは奇跡的な事例だと思う。
本書は全7章からなり、書名からはジャズ史に登場した女性ミュージシャンを紹介した内容であることが想像できる。著者が第1章で取り組んだのは、ジャズ発祥の土地として知られるニューオリンズを出発点としたことだった。これは読者にジャズ史を再認識してもらう意図としては、賢明な選択だと言っていい。第2章「Women」ではマリア・シュナイダー(ldr,composer,arr)、ジェーン・アイラ・ブルーム(ss)、クレオ・レーン(vo)らに言及しながら、「Financiqal Times」「The New York Times」「Downbeat」に掲載の論文を紹介。
第3章「Women of the Past」は女性がビッグ・バンドの一部だったことや、戦前の女性ジャズ・バンドに触れて、ビリー・ホリデイ(vo)、ベッシー・スミス(vo)、メルバ・リストン(tb,arr)、カーラ・ブレイ(p)らの女性ミュージシャンを独立した項目として紹介。第4章「Women in Jazz Today」はテリ・リン・キャリントン(ds)、トリッシュ・クロウズ(ts)らのコメントを織り込んで、ジャズ史における男性ミュージシャンと女性ミュージシャンの差異を明らかにする。第5章「Getting the Break」はそれでも何故女性はジャズを選んだのか、をテーマに、英国人歌手ティナ・メイやクレア・マーティンらのコメントを記載。第6章「Education, Funding & Innovation」は米国のジャズ教育の歴史を紐解くほか、音楽環境の中にあるCD、レコード、デジタル・プラットフォームについての現状と未来を語る。「女性のレコーディング・エンジニアやプロデューサーの活躍が、女性の地位向上のために必要」との指摘に共感した。
著者のスタインには歴史的に男性優位だったジャズ界における、女性ミュージシャンの地位と関係について、社会的な視点が貫かれており、本書の特色となっている。巻末にはインタヴュー・コメントが引用された女性ミュージシャンやクラブ・マネージャー、ディレクター、ラジオ・ホストのプロフィールを、顔写真付きで掲載。ジャズを取り巻く音楽の未来に触れた最終章「Present & Future」を含め、女性に関する問題点にとどまらない指摘も示唆に富む著書である。