ジャンルを横断するノルウェーの代表的ハープ奏者、エレン・ボートケルが4月に来日。「オーロラ――世界で一番美しい光」と題する、映像と解説付きのステージに出演した。終演後に行ったインタヴューで、ジャズ・ファンにも知ってほしいエレンの魅力を探った。
クラシック~現代音楽が活動の主軸の印象がありますが、ジャズとの接点は?
EB:クラシックとジャズを聴く家庭環境で育ったので、どちらも私には親しみがあります。プロの道に進んでから、アルヴェ・ヘンリクセン(tp)を始めとするジャズ・ミュージシャンと共演する機会が増えています。
アルヴェとの共演歴を教えてください。
EB:2003年に共演関係が始まりました。私の2枚目のリーダー作『Villveng』がそれで、とてもアーティスティックなアプローチのスタジオ録音になったと思います。オスロの有名なレインボー・スタジオのヤン・エリック・コングスハウクがマスタリングを手掛けています。その後もヤン・エリック・ヴォルド(vo)との共同名義による2015年の『Sommeren Der Ute』(英語題『Once Upon A Summer』Losen)で共演しました。
今夜のライヴでもアルヴェのトランペットが聴こえたような気がしたのですが。
EB:はい、それは事前に録音された音素材を使用したのです。このようにライヴで私の演奏とミックスする手法は今回が初めてです。アルヴェと私の音楽性はとても近いと感じていて、私のコンサートで彼の音源をサウンドスケープとして使える、と思いました。
アルヴェの魅力とは?
EB:他のトランペット奏者とは異なる独自の個性を持っています。これまでに何度もライヴで共演してきました。彼はステージ上で毎回、新しいものを作ることができます。私のハープは彼のトランペットと上手く融合しているので、共演関係が続いていると思っています。先週オスロでいっしょにコンサートをしました。ジャズ詩人のヤン・エリック・ヴォルドとパーカッションのアイリク・ラウデ奏者が入った4人編成。『Sommeren Der Ute』のレコーディング・メンバーです。
ヤン・エリック・ヴォルドとの共演歴についても教えてください。
EB:2013年、ここ日本でのツアーが共演関係の始まりでした。ノルウェーの作曲家マグナル・オームの作品を取り上げたプロジェクトです。オームがヤンと私を結び付けてくれて、お互いに良い手応えを感じていました。ヤンが書く詩は俳句に似ているんですね。最初に東京で私のアイデアをヤンに伝え、プロジェクトが進むことになりました。広島行きの新幹線の車中のことです。
そのような経緯で制作された『Sommeren Der Ute』の発売元Losen Recordsは、ノルウェーで注目のジャズ・レーベルです。
EB:同作のリリースはアルヴェが提案してくれました。良い仕事をする人々に対しては、心が広いレーベルだと聞いたので。私の性格からしても、録音してから3年後のリリース、というような形は望んでいませんでした。4ヵ月以内にリリースできたのは、嬉しかったです。ノルウェー南部のフェスティヴァルからの委嘱作品でした。アルヴェとヤンにこのプロジェクトに参加できるか打診して、実現したというわけです。
次は新作『Jeg Ser』に関する質問です。アルバム名の由来は?
EB:画家エドヴァルド・ムンク(1863~1944)の友人だったシグビョルン・オブストフェルデル(1866~1900)の同名作品に由来しています。彼はヨーロッパでは有名な、ノルウェーで最初のモダニストの詩人。この詩は代表的な作品です。アルバムの11曲の曲名はすべて彼の詩作品から拝借しました。「アイ・ルック」「グレイ・ブルー・スカイ」「ホワイト・スカイ」「アイ・シー・II」が『Jeg Ser』の収録作品です。
アルバム・コンセプトについて教えてください。
EB:世界中ではすべての物事が速く進んでいます。でも私は長期的な姿勢でアイデアに取り組みたい。「Jeg Ser」は英語で「I look」の意味。自分の内面を見る、自分の外側にあるものを見る。私のアイデアはこのようなマクロとミクロの視野に合致するものを見つけることでした。何故ならば世の中は安全ではなく、それは今必亮とされているからです。難民の問題も起きていますね。そのような世の中の現状に対して、私なりの発言をしたいと考えました。また宇宙のサウンドを探求することも私にとって重要で、ハープとの良いコンビネーションと付帯的な響きが生まれました。
今夜のコンサートは音楽、映像とその解説が融合した、珍しい企画だったと思います。
EB:オーロラに関するドキュメンタリー映像の制作と解説をしてくれたパル・ブレッケは、ノルウェー宇宙センターに所属する天体物理学者。私の演奏と共演したステージは、今回が世界初演です。今後は同じ形のものを、ノルウェーでも開催したいと思っています。