英「Jazzwise」は1997年に創刊した、ヨーロッパの英語ジャズ誌の代表的存在。定期購読をしている私は、ディスク・レビューの速報性や、アメリカの動向にも目配りをしながら自国を軸とした欧州の最新情報を掲載する編集方針に、好感を抱いている。いくつかあるレギュラー企画の一つが「Art Failure」と題した、1/5ページ・サイズのコラム。デザインが残念なLPアルバムを俎上に載せて、くすっと笑ってもらえればというお楽しみ企画だ。このようなコンセプトとは無縁なはずのキース・ジャレットが、2017年10月号で取り上げられた。
「キース・ジャレットは自身の作品で完全主義を貫く性格を踏まえれば、本コラムに登場する可能性が最も少ないミュージシャンであろう。しかし…」という書き出しで、『Best Of Keith Jarrett』(ABC / Impulse)をフィーチャーしている。これは73~76年のアメリカン・カルテットによる既発スタジオ&ライヴ作から選ばれた全8曲の78年発売コンピレーション。出典は『フォート・ヤウ』『宝島』『バイアブルー』『バップ・ビー』等の5タイトルで、コレクターズ・アイテムの『Impulse Artists On Tour』から『フォート・ヤウ』と同日の「Roads Traveled, Roads Veiled」を入れたあたりは、キース・ファンへの配慮が感じられる。ちなみに同曲(9分30秒)は『フォート~』のCD追加曲にもならないままだったが、97年発売の5枚組ボックス『The Impulse Years 1973-1974』で「コンプリート・ヴァージョン」(20分25秒)が初CD化された。
さて問題とされるアルバム・カヴァーは大きさが異なる鍵盤をあしらったイラストであり、デザインは単にピアニスト・リーダーの作品であることしか示しておらず、その意味では平凡だ。同コラムニストはレーベルのデザイン部のスタッフを“アマチュアのピカソ”と揶揄し、同時期のヨーロピアン・カルテットのデザインが優れたECM作と対比させている。このコラムが過去に取り上げてきたのは、ジョー・ファレル=ルイス・ヘイズ『Vim ‘N’ Vigor』やガトー・バルビエリ『El Gato』等、音楽とは無関係だったり場違いな衣装の人物が入ったジャケットやイラストを対象としてきた。イラストの本作に敢えてケチをつけたのは、ここに登場するはずがない大物キースのアルバムから、何か1枚ないかと探して見つけた、ということではないか。コラムの趣旨に沿ったところでは、アメリカン・カルテットの『Birth』(71年、Atlantic)の方が相応しいと思うが、どうだろう。
米MCA / Impulseは81年にアメリカン・カルテット音源のLP2枚組『Great Moments With Keith Jarrett』を出していて、そちらはピアノを弾くキースの写真を使用している。