暗雲が垂れ込めている。3月21日のニューヨーク、カーネギー・ホール公演がキャンセル~払い戻しとなったのに続いて、9月29日のイタリア・ヴェネツィア公演もキャンセルが発表された。カーネギーに関しては公演日の6週間前にあたる2月6日にチケットが発売されたが、そのわずか20日後には購入者に対して「キースの健康問題のため公演はキャンセル。延期公演も行わない」とのメールを配信。これを常識的に考えれば、この20日間にキースの健康状態が急激に悪化したことになる。
ヴェネツィア公演については2月20日に現地(ANSA)の電子版で告知されたのだが、6月中旬にやはりキャンセルと発表された。こちらはNY公演とは事情が異なっている点に留意しなければならない。伊ヴェネツィア・ビエンナーレは制定する“ゴールデン・ライオン功労賞”をキースに授与することを決定。《第62回ビエンナーレ・フェスティヴァル・オブ・コンテンポラリー・ミュージック》で式典が行われることを明らかにした。その中でキースの受賞記念ソロ・パフォーマンスが披露されることとなったわけだが、ソロ・コンサート同様のボリュームなのか、あるいは10分程度のショート・ピース1曲なのかは不明だった。
ビエンナーレとしては受賞者が欠席では何とも寂しいわけで、NY公演中止後にも、キース・サイドと調整を続けたことは想像に難くない。イタリア・サイドはキースの健康が9月の授賞式までには回復すると楽観視していたのではないだろうか。
ここで改めて考えたいのは、キースのソロ・パフォーマンスが、常人には考えられないほどの音楽的、精神的、肉体的な極限状態の中で行われている、ということだ。
スタンダーズ・トリオの終焉、鯉沼ミュージックの閉鎖に伴うキース来日公演の終止符と、近年キース・ファンには大切だったものを失う現実が連続した。
デヴィッド・サンボーン、スティーヴ・ガッド、アンソニー・ブラクストン、ランディ・ブレッカー、アリルド・アンデルセンと同じ1945年生まれ。20年前に慢性疲労症候群からの劇的な復帰を果たしたキースなら、キャリアの新たなページを開いてくれると信じたい。