ピアニストの藤井郷子が夫でトランペッターの田村夏樹と共に、1月8日、東京・新宿ピットインに出演した。この日は「あれもこれも」と題して、昼の部と夜の部に計5組が登場。様々なプロジェクトを多角的に展開している藤井&田村の音楽を、集中的に聴ける機会となった。昼の部は田村&岡部洋一(per)・デュオで始まり、2組目の藤井ソロでは内部演奏をふんだんに盛り込んだパフォーマンスによって、かつてアメリカでポール・ブレイ(p)に師事して自己を研鑽した経歴を想起させた。続く藤井&田村+井谷亨志(per)のThis Is It!は、4人編成のユニットTobiraが母体で、メンバーのトッド・ニコルソン(b)が抜けてしばらくトリオで活動をしていたところ、次第に独自の音楽性が生まれたため、新たなグループ名を名乗ったとのこと。翌日にはこのユニットとしての初レコーディングを控えるステージとなった。
(photo by Bryan Murray)
夜の部のスターターは田村&藤井のデュオ・プロジェクトNatSatと、森田浩彰(美術)との共演。コンセプチュアル・アートの分野で活動する森田は、演奏する二人の隣に立って、紙時計を1分ごとにめくるパフォーマンスを続けた。リスナーが聴く音楽の中に流れる時間の感覚と、実際に進む時間の差異に光を当てることが、その意図だという。ステージの最後を務めたのはセプテットの“お年玉”。藤井と共演歴があるミュージシャンを中心に、この日のために編成された特別ユニットだ。藤井と田村それぞれの長尺の2曲を演奏。特に田村作曲の最終曲「ストップ・アンド・ゴー」では巻上公一(vo)、広瀬淳二(ts)、藤井、田村、藤井と初共演のナスノミツル(el-b)の各人にスポットが当たり、井谷と芳垣安洋のドラム合戦も盛り込まれた。
2018年は自主レーベルLibra Records20周年と、藤井が還暦を迎える節目の年ということで、1月から毎月新作のリリースも決定(第1弾は『藤井郷子ソロ』)。米「ダウンビート」2018年2月号には、「Divergence Highlights Fujii’s Talents」と題した1ページの記事に、プロフィールと昨年の米国公演の模様が掲載された。藤井のキャリアにおける特別な1年になることは間違いないだろう。