インド系アメリカ人というジャズ・ミュージシャンとしては特異な出自を自身の音楽性に反映させるラドレッシュ・マハンサッパは、米「ダウンビート」国際批評家投票で2014年を除く2011~2017年の6回でアルトサックス部門の首位を獲得。実力者がひしめくこのジャンルにあって高い評価を得続けているのは、演奏技術と独創的な音楽性において他の追従を許さないからにほかならない。
近年はチャーリー・パーカーへのユニークなトリビュート作『Bird Calls』を含む独ACTからのリーダー作がステージアップに繋がったわけだが、この新作は自主制作であり、敢えてその形を選んだのは速報性を重視したからではないだろうか。“インド・パック・コアリション”は2008年作『Apti』(Innova)でお披露目となったトリオで、他のメンバーはパキスタン生まれでカリフォルニア育ちのレズ・アバシ(g)と、パーカッション奏者のダン・ワイス。ワイスはマハンサッパのACT2012年作『Gamak』に参加している。
9年ぶりの新作はこの間に3人が飛躍したことを踏まえてか、新しい要素を盛り込んだ。エレクトロニクスとエフェクターの導入がそれで、「エレクトロニクスの使用は新しい楽器を修得することと同じ」と言うマハンサッパは、バークリー音大の専門家が制作した音源を活用して、久々の新作に相応しい新機軸を表現。「ロック・アルバムだと感じてもらえるような制作を心掛けた」とのリーダーのコメントは、アバシのロッキッシュなギターと、前作にはなかった電気サウンドに起因する。
マハンサッパのトレードマークである、ビバップとインド・ルーツを融合させたスタイルに私が共感する理由は、彼が大きな影響を受けたスティーヴ・コールマンをデビュー時からウォッチしてきたファンだから。1980年代にM-Base派を一大潮流へと成長させたコールマンの営為をリアルタイムで目の当たりにし、その遺伝子が発展形としてマハンサッパの中に息づいていることに価値を見出すのだ。
オーヴァーチュアー的な2分22秒の①で開幕すると、アルトとギターのそれぞれがアンプラグドではない電化音で変化をつける楽曲を挟みながら、本作最長14分32秒の組曲風構成の⑦により、トリオの多彩性を打ち出す。アルトをループにしたアップ・サウンドに、スローなアルトを生で乗せる⑧も新味。ワイスがパーカッションだけではなくドラムも演奏したのも、本作のサウンドを豊かにした要因だ。キラー・チューンを挙げるならば④。ウェザー・リポート「ブラック・マーケット」を想起させるメロディは、楽曲のエンディングに向かって高揚感と祝祭感を増していて、まさにウェザー流を踏襲している。
2ドル50セントのダウンロードと、40ドルの限定盤LPのみのフォーマットで、CD発売をしない挑戦的な選択が、今後どのように派生するかもウォッチしたい。(杉田宏樹)
- ①Alap ②Snap ③Showcase ④Agrima ⑤Can-Did ⑥Rasikapriya ⑦Revati ⑧Take-Turns
- Rudresh Mahanthappa(as) Rez Abbasi(g) Dan Weiss(ds,per)
- http://rudreshm.com/
- 協力:Braithwaite & Katz