日本ではまったく無名のグループを紹介したい。私がモポを知るきっかけとなったのは2014年9月、ヘルシンキで開催された《ジャズ・フィンランド・フェスティヴァル》を取材した時だった。事前に彼らの音楽をチェックしない状態でライヴに臨んだのだが、演奏が始まるやビックリ仰天。その衝撃を記したコンサート・レポートを以下に再録する。
「今回、最大の発見だったのが若手バンド“モポ”のリンダ・フレデリクソン(bs,as、1985年生まれ)。第2弾をリリースしたばかりの3人組は2011年の「Young Nordic Jazz Comets」(YNJC)のフィンランド代表で、その勝因が細身の外見からは想像できない彼女のパワフルなバリトンの演奏なのだと納得させられた。最も扱いが難しいサックスを自分の身体の一部として吹きこなす女性奏者を、ライヴで観るのは初めての体験だった。日本ではまだ無名だが、いつかブレイクする日が来るのではないか、と思う」。
Photo by Nauska
2009年結成のモポは男性2名とのトリオ。前述のYNJCは北欧5ヵ国の若手の登竜門に位置づけられているコンテストで、2000年の創設以来、数多くの優れた人材を輩出してきた。モポは母国の代表となった翌2012年にデビュー作『Jee!』をリリース。私が取材した時は第2弾『Beibe』が出たばかりのタイミングで、同作はフィンランドのグラミー賞と認識されている「Emma」の最優秀ジャズ・アルバム賞に輝く。その後2016年にVille Leinonen(vo,g)を迎えた『Laivalla』(以上Texicalli)を発表して、表現領域を拡大した。
この最新作は再びトリオで臨んだ通算4枚目。過去作と同様のイラストではなく、初めてメンバーの姿がとらえられたジャケ写は、レーベルを異動したことの心機一転の表れなのだろう。ロッキッシュな①はバリトンの咆哮と電気ベースの使用によって、トリオの柱となる音楽性を強烈にアピールするオープニング・ナンバー。その勢いは②でも止まらず、奔放なバリトンは敢えてローファイな音質の録音によって、リスナーへのインパクトが増している。③はアコースティック・トリオのセットで、メロディアスなバリトンが歌謡性を帯びているため、親近感を誘発。アルバム中盤をフレドリクソンのアルトによるスロー~ミディアム・テンポでまとめると、終盤には場面が変化。⑦ではゲストのオルガン奏者が加わるが、中心にいるのは強烈なバリトンなのであった。
今回の移籍レーベルであるWe Jazzは、モポの足跡をたどる内容のインタビューと解説を含むブックレットを封入し、初対面のリスナーへも親切に設計。全42分はCDにしては短い印象だが、北欧では一般的で、裏ジャケットのクレジットがレコードのAB面のようになっていることと合わせて、制作ポリシーをパッケージから感じさせるのがいい。
前記の「日本でのブレイク」はまだ訪れていないが、本作がその起爆剤になれば大きな喜びだ。フィンランドの新世代イチオシ・ユニットである。
■①Tokko ②Riisto ③Ruusu ④Mustafa ⑤Niin Aikaisin ⑥Sinut Muistan Ainiaan ⑦Noita ⑧Panama
■Linda Fredriksson(bs,as) Eero Tikkanen(b,el-b,vln) Eeti Nieminen(ds,per,syn) Otto Eskelinen(⑦:farfisa) 2016.8.31-9.1, 2017.3.3-4
■We Jazz Records WJCD07