2010年代の最後の年となる今年。ランディ・ブレッカー(tp,flh)の過去10年間のレコーディング・キャリアを振り返ってみると、大編成の作品が多いことに気が付く。リリース順に挙げると、2011年の『The Jazz Ballad Song Book』(Red Dot Music)はヴィンス・メンドーサが編曲したスタンダードとランディの自作曲を、DR (Danish Radio)ビッグ・バンド&同国立室内楽団と共演した内容。2013年の『Randy Brecker Plays Wlodek Pawlik’s Night In Calisia』(Summit)はポーランドのヴウォデク・パウリク(p)が作曲した楽曲を、現地の交響楽団と演奏したライヴ。2015年の『Trumpet Summit Prague: The Mendoza Arrangements Live』(Summit)はボビー・シュー、チェコ国立交響楽団の創立者ヤン・ハーズネルの3大トランペッターをフィーチャーし、同交響楽団とセイント・ブレイズ・ビッグ・バンドが加わった2012年録音のライヴ。2018年の『Together』(MAMA)はフィンランドを代表するUMOジャズ・オーケストラとのコラボ作で、マッツ・ホルムクイスト指揮・編曲によるオリジナル曲とチック・コリア曲を柱とするプログラムだ。UMO JOと言えばランディの弟であるマイケル・ブレッカー(1949~2007)とも共演ライヴを行っていて、その模様は『Live In Helsinki 1995』でアルバム化されている。
本作でランディが組んだ大編成はNDR(北ドイツ放送協会)Bigband – The Hamburg Radio Jazz Orchestra(以下NDRBB)。欧米の著名ジャズ・ミュージシャン多数と共演してきたヨーロッパの名門だ。プログラムは70年代半ばから82年までの活動で、フュージョン・シーンの代表的なユニットに数えられ、90年代に復活して2タイトルをリリースしたブレッカー・ブラザーズと、故マイケルに代わって公私共にランディのパートナーであるサックス奏者のアダ・ロヴァッティを迎えて2013年に始動したブレッカー・ブラザーズ・バンド・リユニオン(BBBR)のレパートリーを柱とするランディのオリジナル曲で固められている。
オープニング・ナンバーの「ファースト・タイム・オブ・ザ・セット」はBBBRの同名デビュー作の1曲目でもある定番曲。ホーンズのユニゾン・テーマで始まり、トランペットとテナーの掛け合いを盛り込んだ曲調は、ランディらしさが濃い。やはりBBBR盤の収録曲「アディナ」はロヴァッティのために書かれたブラジル・テイストで、このあたりはサンパウロ出身の前妻イリアーヌ・イリアスと現在も良好な関係にあるという情報と重なって、興味を抱く。
第1期ブレッカーズの楽曲が拡大編成によって、どのような新しい魅力が生まれたのか、も興味のポイントだ。『ドント・ストップ・ザ・ミュージック』からの「スクイッズ」はミュート・トランペットとホーンズのコール&レスポンスで始まり、途中でスローに変わってからのテナー・ソロに続く。90年代のブレッカーズ復帰作『リターン・オブ・ザ・ブレッカー・ブラザーズ』収録曲「ソズィーニョ」はフリューゲルホーンが主役を演じ、ランディのリリカルな魅力にスポットライトを当てる。
ランディが80年代に在籍し、一世を風靡したワード・オブ・マウス・ビッグ・バンドのリーダーであるジャコ・パストリアスに捧げた「パストラル」もスロー・ナンバー。ロヴァッティのテナーと共にフリューゲルホーン吹奏で、87年に35歳で早逝した天才ベーシストを追悼する。
ブレッカーズのデビュー作と復帰作の一員であり、所縁が深いデヴィッド・サンボーン(as)が3曲に参加したのも話題必至。BBBR盤からの「ザ・ディプシット」は60年代のトレンドだったリー・モーガン『ザ・サイドワインダー』やハンク・モブレイ『ディッピン』を想起させるジャズ・ロック調が楽しく、兄弟とサンボーンが3管を組んだ『ザ・ブレッカー・ブラザーズ』からの「ロックス」は、お馴染みのホーンズによるユニゾン・テーマを皮切りに、アルト・ソロで高音をヒットさせて、初演から40年を超えても色褪せない楽曲の魅力を輝かせる。80年作『ストラップハンギン』からの最終曲「スリーサム」はゴスペル調のテーマで始まり、エモーショナルなトランペット・ソロを受けて、サンボーンもハイノートを主体にソロを構成。ドイツのビッグ・バンドと共に、時空を超えてブレッカーズ曲に新たな生命を吹き込む演奏が心を動かす。
ランディ・ブレッカーのディスコグラフィーはもちろんのこと、ジョー・サンプル、アブドゥーラ・イブラヒムらとのコラレーション作に並ぶNDRBBのディスコグラフィーにも、新たに加わった秀作である。