マチェイ・オバラは1981年生まれ。音楽院で学び、2006年にジャズ祭の新人コンテストで優勝して、2007年にデビュー作『Message From Ohayo』を制作。次のステップアップは2000年代末のアメリカ在住期で、ブルックリン音楽院に在学しながらジョン・リンドバーグ(b)らとのトリオ作『Three』(2010年)、ラルフ・アレッシ(tp)、マーク・ヘライアス(b)、ナシート・ウェイツ(ds)とのオバラ・スペシャル・カルテットによる『Four』(2010年)と、現地ミュージシャンと制作した経験は、世界進出への布石となった。またオバラが関係者を通じてアクセスしていたECMのマンフレート・アイヒャーがその才能を認めて、ポーランドが誇るトーマシュ・スタンコ(tp)にオバラを推薦。それをきっかけにニュー・バランディア・カルテットに抜擢された。これは2000年代初頭にポーランドの若手だったマルチン・ヴォシレフスキがスタンコに認められ、ECM作に参加し、さらに自己のトリオ作へと発展した成功例を連想させる。
スタンコのニュー~でオバラが出会ったのがポーランドのピアニスト、ドミニク・ワニアで、2012年にノルウェーのウーレ・モーテン・ヴォーガン(b)、ガード・ニルセン(ds)とカルテット“オバラ・インターナショナル”を結成。2015年までに3枚を発表しており、すべてライヴであるのが特色だ。第2作の『Komeda』がそうであるように、ポーランドが生んだ偉大なミュージシャン、クシシトフ・コメダ(p)の音楽遺産を継承する気持ちを強く持つ点を含めて、オバラは同国の若手筆頭格と目されている。
オバラ・インターナショナルは2012年の《東京JAZZ》に出演(ドラムはレギュラーのニルセンに代わってトーマス・ストローネンが参加)しており、オバラは2013、2014年に内橋和久(g)プロデュースのプロジェクトでも来日している。
同じメンバーによる3枚のライヴ作の実績を経て、ECMはオバラ・カルテットのメジャー・デビュー作を制作。1曲を除くすべてがオバラのオリジナルだ。浮遊感が漂う空間を醸し出して、終盤にアルトとピアノのユニゾンが出てくる①、終始スロー・テンポでアルトとピアノがリレーする②、テンポ・ルバートにあって叙情的なピアノが光る③と、前半は静かな雰囲気の中で音楽が生まれており、このあたりは1月のオスロ、レインボー・スタジオという録音環境が自然とサウンド・イメージに重なる。アルトとテナーの違いはあるが、ヤン・ガルバレク(ts)とキース・ジャレットのコンビネーションを想起させるのも興味深い。
変化が生まれるのは後半で、ユニゾン・テーマから始まって最後にバンドがピタリと着地する⑤と、ピアノの即興ソロで口火を切る⑥は、共にリズミカルでスリリングな流れになっていて、前半とは対照的だ。唯一のカヴァー曲④はコメダがJanusz Nasfeter監督の66年作品『Niekochana』(英語では『Unloved』)のために作曲したタイトル・ナンバー。アルトが主旋律を演奏している間、ピアノとベースも積極的に絡んで聴き応えのある瞬間を生んでいる。
ECMから4タイトルを発表してきたヴォシレフスキに続く若手ポーリッシュであるオバラ。本作1枚にと終わらず、このレーベルでさらにキャリアを築いていく予感がしている。
■①Ula ②One For ③Joli Bord ④Unloved ⑤Sleepwalker ⑥Echoes ⑦Storyteller
■Maciej Obara(as) Dominik Wania(p) Ole Morten Vagan(b) Gard Nilssen(ds) 2017.1, Oslo
■ECM 2573