1937年5月15日オスロ生まれのカーリン・クローグは、今年で生誕80年を迎えた現役で活躍するヴォーカリストだ。昨年8月に取材した《オスロ・ジャズ祭》では、ペル・ヒュスビー・オーケストラにフィーチャーされ、サラ・ヴォーンとシーラ・ジョーダンに言及した母国語MCで始まった「イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ」、ヴァースから歌い始めてバリトンサックスと掛け合いを演じた「グッド・ベイト」、そして「レディ・バード」と繋げて、タッド・ダメロン・メドレーを完成。79歳とは思えない現役感を輝かせた。これまでにいくつかの編集作は世に出ているが、本作は節目を記念したプロデューサーからの提案に、カーリンが共感して制作されたボックス・セットである。

6枚組はクロノロジカルに楽曲を並べた形ではなく、各ディスクにテーマを持たせた編集がなされている。カーリンのリーダー・セッションは63年に始まり、エギル・カプスタ(p)・トリオとの『バイ・マイセルフ』（64年、Philips）、ケニー・ドリュー(p)・トリオとの『ジャズ・モーメンツ』（66年、Sonet）の初期代表作を生んでいるが、本作は67年を起点として2017年までの50年間にフォーカスし、過去の編集作とは異なるコンセプトが明確だ。

ディスク1「The Art Of Duo」は文字通りロジャー・ケラウェイ(p)、ベンクト・ハルベルク(p)、レッド・ミッチェル(b)らとのデュオ集。アーチー・シェップ(ts)ら米国人とノルウェー人がユニットを組んだ76年の『ハイ・フライ』からの、シェップとのデュオ曲「ソリチュード」はメンバーのビーヴァー・ハリス(ds)が声をかけてくれたおかげで実現したという。この種の箱ものの興味の的である未発表素材に関しては4曲が収録されており、ビョルン・クラークエッグ(g)との「トゥモロウズ・イエスタデイ」は2017年録音の新音源。74年の『ウィ・クッド・ビー・フライング』（Polydor）を始め、折々に共演してきたスティーヴ・キューン(p)との2015年オスロ・ライヴ「レイジー・アフタヌーン」は、長年の信頼関係が滲み出たバラードだ。

ディスク2「Singing the Blues」はジョン・サーマン(bs)とのデュオ、デクスター・ゴードン(ts)・グループやケニー・ドリュー(p)・トリオとの共演等を収録。NDRビッグ・バンドとの76年ハンブルク録音「エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルース」は、ハーブ・ゲラー(as)がファンキーなソロで貢献した価値あるトラックだ。ディスク3「With the Big Bands」はベルゲン・ビッグ・バンドや、前述のタッド・ダメロン曲に由来するジョージー・フェイム(vo)との共演に加え、67年の渡米時にドン・エリス(tp)楽団と共演した2曲は、本作の基板となった初期音源。米国と北欧ではまだジャズ格差があったと思われる時代に、カーリンは「イン・ユア・アームズ」を堂々と歌い上げる。78年の発掘音源「アイ・ウォント・ア・リトル・ガール」はペル・ヒュスビー指揮ボデガ・バンドの78年の演奏で、クラーク・テリー(tp)が参加。マイルス・デイヴィス(tp)やロイ・ヘインズ(ds)の名前が出る男性歌手とのやり取りが楽しい。

ディスク4「New Paths」は共演者及び共同作者として夫君でもあるジョン・サーマンとの関係が浮き彫りになった編集。未発表曲「アット・ジ・オペラ」はベンクト・ハルベルクとの完全即興によるデュオ。クローグの普段あまり表に出ないスキルの一面に驚かされる向きも少なくないだろう。ディスク5「All Sorts」は『サム・アザー・スプリング』『イン・ア・ラグ・バッグ』等からのセレクションで、フレッド・ノデルンド楽団との74年NRK録音は音楽経済が豊かだった時代を偲ばせる。ディスク6「From the Songbooks」は過去作からのセレクションで、「スカンディア・スカイズ」は作曲者のケニー・ドーハム(tp)が“コペンハーゲン・モンマルトル”に出演した時に知己を得て、後に自作の歌詞をつけたという。スティーヴ・キューンの好演が光る。

この種のボックスとしては珍しく、各ディスクはカーリンの異なる写真をあしらった紙ダブル・ジャケットに収納。ライナーノーツとデータを完備した43ページにブックレットも完備して、決定版を作るとの制作者の気概が伝わってくる。2006年が日本での最後の公演になったカーリンの再来日に関して、本作を聴いてさらに欲求が高まった。

• Disc-1:①I Ain’t Here ②The Thrill Is Gone ③Where Flamingos Fly ④Jeepers Creepers ⑤Solitude ⑥Just in Time⑦I Was Doing All Right ⑧As You Are ⑨I’m Shadowing You ⑩Spring In Manhattan ⑪Tomorrow’s Yesterday ⑫Lazy Afternoon ·Disc-2:①K.C. Blues ②Wee Baby Blues ③SAS Blues ④Jelly Jelly ⑤Blues In My Heart ⑥All Blues ⑦I Got The Right To Sing The Blues ⑧Señor Blues ⑨Time’s Getting Tougher Than Tough ⑩Every Day I Have The BluesDisc-3:①Dig It ②Round Midnight ③Hi Fly ④Good Bait/Ladybird ⑤In Your Arms · ⑥Spring Affair ⑦Angel Eyes ⑧Lament ⑨My Shining Hour ⑩I Want a Little GirlDisc-4:①Lesson Five ②Aria ③Pebble Song ④Voice Shadow ⑤Don’t Just Sing ⑥Santa Monica ⑦Circle Song ⑧At The OperaDisc-5:①Tulip Or Turnip ②Shiny Stockings ③Old Piano Roll ④Goodbye Pork Pie Hat ⑤I’m Old Fashioned ⑥Happy Song ⑦One Long String ⑧The Sun & The Water ⑨Sunny ⑩The Joint Is Jumpin’Disc-6:①I’m Beginning To See The Light ②That Old Feeling ③The Folks Who Live On The Hill ④Out Of This World ⑤I Wish I knew ⑥Three Little Words ⑦Scandia Skies ⑧Sweet Talker ⑨Canto Mai
• Karin Krog(vo) Palle Mikkelborg, Martin Winter, Are Ovesen(tp) John Surman(bs) Dexter Gordon, Archie Shepp(ts) Frode Nymo(as) Chris Potter, Vidar Johansen (sax) Guttorm Guttormsen(fl)·Odd Ulleberg(horn) Stein Erik Tafjord(tuba) Bengt Hallberg, Steve Kuhn, Kenny Drew, Vigleik Storaas, Per Husby, Egil Kapstad(p) Jacob Young, Bjørn Klakegg(g) Niels Henning Ørsted Pedersen, Red Mitchell, Arild Andersen, Bjørn Alterhaug, Terje Venaas(b)Espen Rud, Alex Riel, Egil Johansen (ds)Reid Gilje(cond) Bergen Big Band 1967-2017…
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