2007年の『Greatest Hits Rerecorded Vol.1』以降、自主レーベル335 Recordsを通じて個人名義作ばかりでなく、ロベン・フォード、デヴィッド・T・ウォーカー、スティーヴ・ルカサーといったギタリストとの共演ライヴ作を連発して、何物にも縛られず自由に作りたい音楽を作っている印象が強いラリー・カールトン。2010年の松本孝弘との『テイク・ユア・ピック』に至っては、グラミー賞《ベスト・ポップ・インストゥルメンタル・アルバム》に輝いて、実力のみならず強運をも世界に示した。
本作は1951年創立のSWRビッグ・バンドとのコラボレーションだ。同楽団はフィル・ウッズ、スライド・ハンプトン、フランク・フォスターをフィーチャーした作品や、秋吉敏子、マリア・シュナイダー、サミー・ネスティコの楽曲集等、多数の成果を生んでいるドイツの名門。フュージョン系のカールトンとの共演は新境地と言える。
選曲が興味深い。M-1「メロウ・アウト」は70年代にカールトンが在籍して、現在に至るキャリアの基礎を作ったクルセイダーズの『チェイン・リアクション』(75年)収録のカールトン提供曲。その初演が2分46秒だったのに対して、こちらはテーマではブルージーに、展開部ではファンキーに響くギターとホーンズのアンサンブルが共鳴する5分8秒。アレンジャーのジョン・ビーズリーは「インターナショナル・ジャズ・デイ」の音楽監督を務め、今年は生誕100年にあたるセロニアス・モンクの楽曲をカヴァーした『モンケストラVol.2』を発表して、バイプレイヤー・タイプからバンド・リーダーへとステップ・アップした感がある才人。やはりビーズリー編曲の「マイルストーンズ」は作曲者マイルス・デイヴィスのフレーズをホーンズにアダプトし、エンディングは「この手があったか」と、思わず膝を打つ。
70年代のカールトンのもう一つの特記事項は、スティーリー・ダン作品への参加だ。『幻想の摩天楼』からのM-3「滅びゆく英雄」は、「ローリングストーン」が選ぶ3大ロック・ギター・ソロの一つとして、カールトンのウェブサイトでも経歴ページに引用されているほどの名演。40年後の本作ではスローテンポで原曲の歌唱パートをギターが奏でるイントロから、楽団と共にアップへとギアを入れる。ギターと楽団が一体となる終盤への流れもいい。
フルート・ソロを聴かせるマグナス・ルングレンはこの曲の編曲者で、本作の5曲をアレンジした陰の功労者。その1曲である「ルーム335」は言わずと知れたカールトンの代表曲であり、参加作のスティーリー・ダン『エイジャ』収録曲「ペグ」(この曲にカールトンは不参加)を気に入って、ダンの許可を得てリズム・パターンを基に作曲した逸話も有名だ。この曲の大編成版を、今年独ACT契約第1弾を出したスウェディッシュが手掛けた事実に注目されたい。
ダン関係はここで終わらず、ボーナス・トラックの「ブラック・フライデー」はカールトン参加作『うそつきケイティ』の収録曲(同曲にカールトンは不参加の模様)。スタンダードや自作の他の楽曲を合わせて、本作の選曲テーマが「カールトンのキャリアで豊かな時代を築いた70年代へのオマージュ」にあるのではないか。収録曲の流用ではないアルバム名は、自身のレパートリーをリニューアルして輝かせる、とのメッセージが重なる。