40代のフランス人サックス奏者としては、この10年間で最も顕著な活躍ぶりが認められるエミール・パリジャン。ドイツACT Musicの専属になってからは、レーベルのアドヴァンテージを得たリーダー作の制作活動を通じて、ヨーロッパ全域で知名度を高めている。今春、映画音楽の作曲家でベーシストのエリック・セラ率いるRXRA グループのメンバーとして来日したパリジャンにインタヴューを行った。
――今回は何度目の来日になりますか?
EP:2度目です。前回は2012年にジョー・ザヴィヌル(key、1932~2007)へのオマージュであるザ・シンジケートのメンバーとして、ブルーノート東京に出演しました。
――ザヴィヌルがウェザー・リポートの解散後から晩年まで率いたザヴィヌル・シンジケート(1988~2007)のメンバーだったのですか?
EP:いいえ、私がバンド・メンバーとの共演関係が始まったのは、ザヴィヌルの他界後で、彼にオマージュを捧げるバンドでは約10年間活動しました。12年前の来日メンバーは、ティエリー・エリス(key)、ムニール・ホッスン(g,b)、パコ・セリー(ds)、サビーヌ・カボンゴ(vo,per)。ティエリーは今回のRXRAグループのメンバーでもあります。
――エリック・セラ&RXRA グループとの関係について教えてください。
EP:エリックと知り合ってから20年になります。彼は素晴らしい映画音楽の作曲家でベーシスト。ウェザー・リポートの大ファンなんですよ。彼は自身の映画音楽を演奏するバンドを作りたいと思って、20年前に結成しました。ティエリー・エリスがエリックと私を引き合わせてくれたのがきっかけで、1度リハーサルをした時の感触が良くて、バンドに加入。それから10年間在籍してコンサートを経験してきました。その後、私が自分のバンド活動に集中しなければならなくなったため、エリックのバンドから離れていましたが、今回はエリックから再び声がかかって、来日公演に参加しました。とても嬉しく思っています。これを機会に、エリック・バンドとの関係を継続できればと考えています。

――ACTの創業プロデューサー、シギ・ロッホとの関係について教えてください。
EP:12年前に私にとって初めてのACTレコーディングであるヤロン・ヘルマン(p)の『ALTER EGO』に参加しました。その後シギ・ロッホからの提案を受けて、ヴァンサン・ペイラニ(accordion)とのデュオ作『BELLE ÉPOQUE』(2013年録音/2014年発表)を制作。同作はシドニー・ベシェ(ss)へのトリビュートがテーマです。ヴァンサンとは1,000回近いデュオ・コンサートを行っていて、これまでACTの5タイトルで共演しています。私の個人名義ではカルテットの『SPEZIAL SNACK』(2014年録音)がACTでの初リーダー作になります。
――ディスコグラフィーを見ると、近年はソプラノサックスに専念している印象です。
EP:私のサックス歴はとても若い時のアルトでスタートしました。15歳でソプラノを始め、それが自分の主楽器だと思いました。自分のカルテットでテナーを使用したこともありますが、やはりソプラノの方が自分の好みです。この楽器は私の身体の一部だと思っています。自分が演奏して心地良く感じるのがソプラノ。今回のEric Serra & RXRA Groupを含めて、今はソプラノに集中しています。
――2020年のコロナ禍以降、活動などに変化はありましたか?
EP:特に大きな変化は感じていませんが、すべての人々にとって特別な時期だったと思います。私にとってはコンサートが行えず、自宅で過ごさなければなりませんでした。でも作曲の時間に、より多くを充てることができたのは良かったと思っています。
●『SPEZIAL SNACK』試聴:

――『LOUISE』(2021年6月録音/2022年発表)はアメリカ人のシオ・クロッカー(tp)、ジョー・マーティン(b)、ナシート・ウェイツ(ds)の参加が興味深いです。
EP:フランス・アミアンのギル・エヴァンス・スタジオで、コロナ禍の時期に録音しました。このバンドで演奏することを決めたのは、ナシート、シオと心から共演したいと思ったからです。ナシートとはフェスティヴァルの会場で会う機会がたびたびあって、「いつかいっしょに演奏できたらいいね」とお互いに言葉を交わしていました。実現できて良かったです。それからコロナ禍に母親の具合が悪くなったこともあり、同作に収録した3パートの「メメント」は彼女に捧げています。
――ご自身のカルテットは結成から20年。どのように進化してきたと思いますか?
EP:この20年間をいっしょに過ごしてきたことは、私たちが音楽と作曲の中に深く進み、メンバー間の絆が強くなったと思います。お互いを完全に理解し合い、一つのユニットとして確実に進化しています。
●『LOUISE』試聴:

――2023年6月録音/2024年発表の最新作『LET THEM COOK』のアルバム名の由来は?
EP:20年が経った今も私たちは音楽を“料理”し続けていて、私たち自身の音楽をいっしょに作る、そのやり方が好きです。新しい料理をいっしょに作るような感覚があります。
――ライナーノーツにはバンド・サウンドの転機は、『DOUBLE SCREENING』(2017年12月録音/2019年発表)のアルバム・ツアーの終盤に訪れた、と記されています。アコースティック・サウンドとエレクトロニクスの融合を着想したきっかけは?
EP:『DOUBLE SCREENING』はアコースティック・サウンドでした。同作からカルテットに加入したドラマーのジュリエン・ルテリエは、エレクトロニクスやテクノ・ミュージックをよく演奏した経験があって、私は彼の活動に興味がありました。バンド・メンバーの最年少で、フレッシュな感覚と新しいアイデアの持ち主。そんな彼のセンスをバンドに取り入れることに興味があって、それは上手くいったと思います。またミシェル・ヴォルニー(p,el-p,syn)、ティム・ルフィーブル(b,el-b)、クリスティアン・リリンガー(ds,per)と私のカルテット・ライヴ作『XXXX』(2019年12月録音/2021年発表)では、サックスでもエフェクターを使用していて、アコースティック・サウンドに少々のエフェクトを混ぜることを企図しています。
――新作では、全員が疾走する③「ココナット・レース」が衝撃的です
EP:カルテットのメンバーはオーネット・コールマンの音楽、フリー・ジャズが好きです。エネルギッシュでパワフルなサウンドを作りたかった。エネルギーを集中させて、リズミカルでダンサブルなパートに進み、最後にリラックスしたパートに移る――三つのパートで構成されています。コラージュのようなパッチワーク、アイデアの組み合わせです。
――レコーディング時のエピソードがあれば教えてください。
EP:カルテットの新作が完成するまでには長い道のりがありました。過去に4タイトルを制作した上で、新しいものを始めるのは難しかったからです。スタジオで長時間を過ごしました。1週間で3回のセッションを行ったのは、さながら研究所の趣でした。私たち自身の自己模倣ではなく、アイデア、エレクトロニクスの融合、作曲手法において新しいものを探しながら新作を完成させるまでに必要な時間だったと思います。良い雰囲気が生まれ、全員が集中していた、素晴らしい時間でした。
――ファンにメッセージをお願いします。
EP:私の音楽を日本の皆さんに聴いていただいて、とても嬉しく思っています。皆さんは心が広くて、音楽を真剣に聴く姿勢を持っている点に好感を抱いています。とても素敵なことです。私のカルテットで日本を訪れることを願っています。
(2024年3月29日、ビルボードライブ東京にて)

【作品情報】
LET THEM COOK / Emile Parisien Quartet
■①Pralin ②Nano Fromage ③Coconut Race ④Ve 1999 ⑤Pistache Cowboy ⑥Wine Time, Pt. 1 ⑦Wine Time, Pt. 2 ⑧Tiktik ⑨Mars
■Emile Parisien (ss,effects) Julien Touéry (p) Ivan Gélugne (b) Julien Loutelier (ds, electronics) 2023.6, Amiens
■ACT Music 9983
●『LET THEM COOK』試聴:
(取材協力:キングインターナショナル、ポッション エッズ)